01:「特殊清掃社スミダ」
その会社の名前を、正確に覚えている人間は少ない。
看板は出ていない。
名刺にも、業務内容は詳しく書かれていない。
ただ一行だけ。
「特殊清掃社スミダ」
それだけだ。
事故物件、という言葉がある。
人が死んだ部屋。
理由は様々だが、結果として住めない場所になる。
血が残る。
臭いが残る。
記憶が残る。
そして、不動産会社はそれを「告知事項あり」と呼ぶ。
墨田の会社が扱うのは、
その後だ。
遺体が運び出されたあと。
警察が去ったあと。
特殊清掃会社が入ったあと。
近隣の噂が広がりきったあと。
誰も触れたがらない状態になった部屋に、墨田たちは入る。
床を剥がし、
壁を削り、
臭いを分解し、
形を元に戻す。
そこに何があったのか、分からない状態にまで。
それが仕事だ。
――――――表向きは。
実際には、違う仕事で入っている。
依頼書には書かれない。
契約書にも残らない。
ただ、口頭で伝えられる。
「終わっていない現場です」
そう言われたときだけ、彼らは呼ばれる。
清掃は済んでいる。
臭いもない。
見た目も問題ない。
それでも、入居が決まらない部屋。
内見に来た人間が、同じことを言う部屋。
――誰もいないのに、音がする。
――視線を感じる。
――まだ、何かいる気がする。
そういう場所を、彼らは扱う。
会社の中では、それをこう呼んでいる。
「再発案件」
現象が戻る現場。
処理したはずのものが、消えない場所。
原因は一つではない。
処理が不十分な場合もある。
構造に問題がある場合もある。
単に、気のせいで済むこともある。
だが、ごくまれに。
どれにも当てはまらない現場がある。
完全に処理されているのに、残っている。
何もないはずなのに、増えていく。
説明のつかない形で。
そういう現場に入るとき、彼らは一つだけ決めている。
「見たものは、現場の一部として扱う」
否定しない。
無視もしない。
ただ、処理する。
それが、この会社のやり方だった。
そして――
墨田が経営する会社は、
その中でも一番、再発率の高い現場を担当していた。
理由は単純だ。
一度見たものを、見なかったことにしないからだ。
だからこそ、呼ばれる。
終わったはずの場所へ。
終わらなかったものを、処理するために。
もっとも、その残っているものが、本当に処理できるものなのかは――
墨田たちにかかっている。




