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16.肥溜め令嬢の冬至祭③

遅れに遅れております、申し訳ございません……!

 

 もともとジェダイド第2王子殿下は、地味な色味も相まって、あまり目立たない存在でした。


 何より、ネフライド王太子殿下がダントツで華やか過ぎました。


 完全に影に隠れる状態で、単なる保険――もしものときの代用品スペアとしてしか見られず、抑圧された生活を強いられて来たのでしょう。

 兄はもとより、国王陛下や高位貴族から強く言われれば、すぐうつむいて「はいわかりました」と言ってしまう方だったとか。


 そんな殿下が(うちのお姉様のせいで)ハジけた時、結成されたという『非モテ団』。

 そのリーダーだった時の覇気が、今、再びこの場に降り立ち―――。


「“あの頃”のジェダイド様が戻ってらした……!すてき……!」


 唐突に始まった愛の告白ノロケに、エメライン妃殿下はすっかり頬を染めておりました。


 ……ええんか、こんなんで。


「……ほう。エメライン孃を渡さない、とな。されば、何とする?」


 王太子殿下は優雅に立ち上がり、第2王子殿下に向き合いました。

 お体から、ゆらりと威圧のオーラが立ち昇ります。


「知れたこと!アンタも公爵もぶちのめす!!そして、家族みんなでズィルバーに帰るんだ!!」


 第2王子殿下はぐっと両足に力を込め、王太子殿下に踊りかかりました。


「喰らえ兄上!必殺!“流星落とし(メテオドライバー)”!!」


 その時、夜空翔ける流星のように、第2王子殿下の全身が輝きを放ちました!


「ああっ、あれはまさしく、建国より我が国の王室に伝わる伝説の流派・『王室武闘術ヘルシャーアーツ』!」


 わたくしの側で、ソファアお義姉様がめっちゃ早口で言い切りました。


「知っているのですかお義姉様?!」


 思わず口に出してしまうわたくし。そんなのあったんですね?!


「甘い!“流星返し(メテオブレイク)”!」


 しかし、王太子殿下も負けておりません。

 襲い来る技の威力を受け流し、顔を目掛けて飛んできた掌底を受け止めます。


 ゴォッと余波が壇上に走りました。


「クッ、俺の渾身の一撃を……!」


「フッ、惜しかったなジェダイド。あと5ミリずれていたら、私の体には吹き飛んでいただろう。だが!」


 王太子殿下が腕に力を込めると、第2王子の体がぐるりと回転し、ズダーンと床に打ち付けられます。


「甘いのだよ、我が弟よ!エメライン嬢を得たくば、私を殺す気で来るがいい!!」


 王太子殿下の拳が、寝転がる第2王子殿下に向かって容赦なく放たれました。


「させるものかよぉ!」


 すばやく身を翻し、王太子殿下の攻撃をかわす第2王子殿下。

 逸れた斬撃は舞台の床を抉り、バキッと音を立てました。

 そのまま転がって立ち上がり、間合いをあけて王太子殿下に対峙します。


 ふたりの間に、緊迫した空気が張り詰めました。


「……フン。少しは出来るようになったようだが、私にはまだまだ及ばんな、愚弟よ!新たな王太子妃の前で醜態を晒す前に、潔く降参するがいい!」


 王太子殿下の顔に、獰猛な肉食獣のような笑みが浮かびます。


「うるせえクソ兄貴!エメラインも、子供たちも、絶対にアンタにゃ渡さねえ!俺はアンタに勝つ!俺を鍛えあげてくれた、メタリック卿(じっちゃん)の名にかけて!」


 第2王子殿下は拳を握りしめ、挑発するように王太子殿下に向けました。


 ……いやいやいやいや、なんか始まってしまってますけども、なんですかねこれ。どこ向かってるんですかこれ。


 会場の皆さんは完全に置いてけぼりですよ?大丈夫ですか?


 メタリック卿も「うむ、出来ておるのう」なんてウンウン頷いてらっしゃいますけど、止める気ないんですね……。


 どうしよう、このままだと「ふたりの戦いは命尽きるまで続くんじゃ(CV八奈○乗児)」みたいな展開になってしまう……!


 チラリと国王陛下に目線を配れば、メタリック卿から渡された爵位に関する書類を、顔から遠く離してみたり、近付けてみたりと、ためつすがめつされております。


 ……あっ、老眼?老眼なんですね陛下?

 誰か、国王陛下にハズキ的な片眼鏡ルーペを……!


「……いい加減にしてくださーい!!」


 ―――その時、張り詰めた空気を引き裂くように、可憐な声が響きました。


 超展開についていけず、ポカーンとしていた会場の貴族たちの目線が、一斉に声の主に注がれます。


「エメライン……!」


 涙目でぷるぷる震えるエメライン妃殿下は、とても3人の子持ちに見えません。合法ロrゲフンゲフン、幼気な容姿は何年経っても変わらないですわ。


「もう!どうして男の人って、人の話を聞こうとしないのですか!?勝手に喧嘩を始めて……まずはわたしの答えを聞いてからでしょう?!なんなんですかふたりとも!!」


 ぷんすこ怒ったエメライン妃殿下は、腕の中ですやすや眠るランドブラウ殿下をいったん侍女に預けると、スタスタと歩いて、ふたりの王子の間に割り込むようにして立ちました。


 キッと顔を上げて、王太子殿下を睨みつけます。


「王太子殿下!わたし、王太子妃になんかなりません!先ほどの求婚は、お断りさせていただきますわ!」


 はっきり仰せになるエメライン妃殿下。

 王太子殿下は、鼻白んだ表情をされました。


 エメライン妃殿下は、更に追撃を深めます。


「モントシャイン公爵閣下!お聞きの通り、わたしは王太子妃になりません!だから、閣下の養女にもなりません!平民のエメラインとして生きて行きます!」


 王太子殿下の後ろにいたモントシャイン公爵閣下にも、容赦なくバッサリと行きました。

 閣下のポカンとした様子なんて、初めて見ましたわ。


「国王陛下もです!今日こそ、ちゃんと聞いてください!!わたしは今までもこれからも、ジェダイド様の妻です!それ以外の何者でもないんです!ズィルバー領地で、家族みんなで暮らしたいだけです!王子妃も王子もごめんです!もうおうちに帰してください!」


 切々と言い募る、エメライン妃殿下。

 ……いえ、今はエメライン様とお呼びすべきかしら。


 誰も何も言えず静まり返ってしまう中、エメライン様は、壇上のルティーナ妃殿下……ルティーナ様に、小走りで駆け寄りました。


「大丈夫ですか、ルティーナ様!こんな人たちの言うことなんて、聞くことないです!わたしは子供たちと領地に戻ります!ルティーナ様は今まで通り、王太子妃として―――」


 エメライン様に手を差し伸べられて、それまで抜け殻同然だったルティーナ様の目に、強い光が戻りました。

 エメライン様の手をパンっと振り払い、キッと睨みつけます。


「っ触らないで!何よ、いい子ぶって!わたくしがあなたたちにも暗殺者を送っていたことを、知ってるくせに!」


「え?」


 エメライン様が目を見張りました。

 ルティーナ様は、美しいお顔をくしゃくしゃにして叫びます。


「わたくし、昔からあなたが大っ嫌いだったわ!子供3人産んで、どうしてそんなに体型もお肌も変わらないのよ?!わたくしは産むたび大変だったのに……それも、産んだ子がみんな男の子なんて!ずるい!ずるいわ!あなたなんか、平民上がりの騎士爵の血を引いてる、半端者のくせに!どうして由緒正しい血筋のわたくしには、男の子ができないのよ?!どうしてよ!こんなの不公平よ……!!」


 最後には、うわああーと声を上げて泣き伏されるルティーナ様。

 これまで鬱積していた全てが噴き出してきたのでしょう。


 王家の思惑に引っ掻き回され続けた二人が、壇上で向き合い―――。


 エメライン様はきゅっと唇を噛み締めて、ルティーナ様を両腕で包み込むように掻き抱きました。


 最初は、幼い子供のようにイヤイヤされていたルティーナ様でしたが、やがてしがみつくようにしてオイオイと泣き続けます。


 その姿に、言葉が見つからず、再び誰もが口をつぐんだ時。


「……すまなかった、エメライン!!俺が不甲斐なかったばかりに!!」


 一番最初に動いたのは、第2王子殿下でした。

 ビターンと派手に音を立てて、土下座されましたわ。


「俺がウダウダしてたせいで、6年も領地に戻してやれなかった!子供たちも乳母に引き離されて、辛い思いをさせちまった……本当にすまなかった!!」


「ジェダイド様……!」


 エメライン様は、潤んだ瞳で第2王子殿下を見つめました。


「そして……ルティーナ殿!あなたにもいらん苦労をかけてしまった!俺が、初めから父上の話をキッパリ断っておけば、こんなことにはならなかった!すまなかった!あなたはなんにも悪くないのに……!」


 第2王子殿下は、同じ勢いでルティーナ様にも頭を下げられます。


 突然謝罪されて、ルティーナ様は泣き濡れた顔を上げ、呆然と第2王子殿下を眺めました。


 謝罪が終わると、第2王子殿下はスックと立ち上がり、王太子殿下、並びに国王陛下の顔を交互に見渡しながら、高らかに宣言されました。


「……兄上。そして父上。俺は今日をもって、コールユーブンゲン姓を捨てる。王宮から出て、ズィルバー領地に戻り、単なる一庶民として、家族と暮らす。エメラインと3人の子供たちも一緒にな!王子の告示も、今日を限りに無効にしてもらうぞ!」


 王太子殿下は、驚いた顔で弟殿下を見ます。

 国王陛下は感情の読めない目で、第2王子殿下を睥睨しました。


お読み下さいましてありがとうございました!

がんばって進めます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 結構展開が好みなので最終回まで頑張って欲しいなー
[一言] いったいどこに向かおうとしとるんや…(戸惑い)
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