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1.肥溜め令嬢と呼ばれて

お久しぶりです。

全6話くらいの長さになります。

食事時注意かもしれません。


※2021/1/9追記 

 全20話越しそうです。更新遅れすいません……!


 

 まあ、よくある話ですわ。


 わたくしプレッツェル・ラノーバ侯爵令嬢は、婚約者であるドノヴァン・スプラウト公爵令息から、学園の卒業パーティーで、婚約破棄を申し渡されました。


 理由?

 ええ、まあ……ドノヴァン様に付きまとう低位貴族の小娘、ローレナ・トファ男爵令嬢を虐げ、農業体験実習の際に、事故に見せかけ肥溜めに落として抹殺しようとしたのがバレたのですわ。


 いくら侯爵令嬢といえども、殺人未遂は誤魔化しきれませんでした。


 あ、ひとつ付け足しますが、田舎の肥溜めの規模はハンパないのですわよ?

 たまに地元のチビっ子や酔っぱらいがハマッて、ふつうに事故になるくらいやばやばのやばなのですわ。


 ……ええと、そんなワケでして、わたくしはなんとか実家の権力によって実刑は免れたものの、『肥溜め令嬢』という悪名が学園内で轟きました。


 そんな中行われた卒業パーティーで、見せしめにするために、観衆の前で断罪アンド婚約破棄を食らったわけですわ。


 で、パーティー会場からトボトボ徒歩で帰ろうとした際に、何者かに拉致され、田舎に運ばれて、簀巻きのまま肥溜めに不法投棄されました。


 これにて肥溜め令嬢の完成ですわね!


 ……なんて、今だから笑い話(?)にできますけど、悲惨の一言に尽きる人生の終わりでした。


 で、肥溜めで溺れ死んだはずのわたくしですが、なんと死後すぐに、いわゆる『巻き戻り』を体験したのです。


「ああ!う○こが!う○こが穴という穴から!」などと絶叫しながら目が覚めたら、実家のベッドの上でした。


 ファ?とあたりを見渡しますと、子供の頃ハマッていた児童書『オソマたんてい』のぬいぐるみが所狭しと並んでいました。


 あ、ひとつ付け足しますと『オソマたんてい』とは、いろんな動物の痕跡から事件を解決するヒントを見つけ出す天才探偵オソマが、ライバルである怪盗ハバカリの悪事を暴くストーリーで……ってすいません、話が逸れましたわね。


 で、部屋や侍女や家族の様子、鏡に映ったわたくしの容姿から鑑みるに、「ああこれよくある人生やり直し系ですわね。今は8歳くらいでしょうか」という結論に至りました。


 この頃のわたくしは元気はつらつ天真爛漫な末っ子令嬢で、祖父母、母親、兄や姉からデロ甘に甘やかされた、恐れを知らないヤンチャ女児でしたわ。


 ……まあ、その甘やかしが後ほど、傲岸不遜で高慢なワガママ令嬢に昇華してしまうわけですが。


 事態を察したわたくしは、とりあえず以前の反省点を生かし、肥溜めエンドを回避するべく行動を始めました。


 というか、なんで巻き戻りが起きたのでしょう?別にわたくし、聖女でもなんちゃらの愛し子でもありませんし、魔法的な加護もないのに……。


 まあ悩んでも仕方ないので、肥溜めの女神様が気まぐれに恩寵を授けたということにしました。肥溜めにはえらいこと麗しい女神様がいるって、どこかのばっちゃが言ってた気がします!


「ネリー!わたくし、もっとお勉強がしたいですわ!」


 巻き戻りから数日後、わたくしは乳母のネリーにおねだりしました。


 巻き戻り前のわたくしは、少しばかり優れている容姿と、生まれついた身分、家族の溺愛にあぐらをかきまくり、礼儀作法は最低限、勉学も底辺スレスレレベルでした。


 まずはその辺りから改善をしようと思ったのです。


「まあ!とても素晴らしいことですわ、プリィお嬢様!さっそく奥様にお伝えしますね!」


 親しいものだけが呼ぶわたくしの愛称を呼び、ネリーは笑顔を浮かべました。


 末娘にゲロ甘なラノーバ家の中、彼女だけがわたくしの行く末を案じておりました。


 ネリーは侯爵家当主であるお父様の縁者であり、お父様が影で家族に冷徹な視線を向けていることを知っていたのです。


 このままでは、わたくしが何らかのミスを犯した際に、情け容赦なく切り捨てられてしまう……とハラハラしていたそうで。


「まあ、プリィ、あなたはまだ幼いのよ?子供の仕事は、よく遊んでよく食べて、よく寝ることです。さぁ、お母さまと一緒にお茶をしましょうね」


 しかし、甘やかし1号のお母様は、わたくしの発言をぺいっと切り捨てました。


「奥様、せっかくプリィお嬢様がやる気を出されたのですから……」


 ネリーが進言しても、どこ吹く風です。


 それどころか、


「そうだぞプリィ!女の子に学は必要ない!愛らしく楚々としていればいいんだ。アンナ姉上は貴族学園を中退したが、ミルコメレオ伯爵夫人になれたじゃないか!」


 甘やかし2号、カルフお兄様が追撃してきました。


 昨年お嫁に行かれたアンナお姉様の話を持ち出して被せてきます。


 うーん、こりゃ出だしから計画頓挫かなぁ……と、わたくしがしょんぼり俯いていると、


「いいじゃないか。どういう勉学がしたいんだい、プリィ」


 いつの間にかお父様がわたくしの後ろに立っていて、そうおっしゃいました。


「父上!」


「あなた!」


 兄と母が驚きの声を上げました。


 宮廷で第二宰相を勤めておられるお父様は、ふだんから多忙です。


 帰宅は毎日深夜に及びますが、まれに先触れもなく早く帰宅することがありました。


「お帰りなさいませお父様!……わたくし、真っ当な侯爵令嬢として、デビュタントを果たしたいのです!」


 背後に立つお父様に向き合って挨拶をしたわたくしは、はっきりそう言いました。


「ほう。……真っ当、とは?」


 明らかに実の娘を見る目ではない……出荷を待つ牛さんか豚さんの成育ぶりを見定める、畜産業従事者のような目で、お父様がわたくしを見ています。


 巻き戻り前は気付かなかった冷ややかな視線におののきながら、わたくしは答えました。


「ご安心ください!わたくし、王妃だの王子妃だの、頂点テッペンを取ろうだなんてだいそれたことは考えておりません!ただお父様の娘として、恥じることのないレディになりたいのです!まずは平均的な学力を身につけますわ!」


 巻き戻り前のわたくしは、前述の通りクウネルアソブの権化でした。


 よくあんなんで公爵家と縁談が整ったなと思いますが、ドノヴァン様は公爵令息と言っても第四子で、将来は騎士爵を賜る予定の方でした。


 そういえば顔だけはピカイチでしたが、成績はドベでしたわ。運動神経も鈍く、騎士爵?そんな体力で大丈夫か?状態でした。


 あら?これはいわゆる、『割れ鍋に綴じ蓋』というやつでは?


「なるほど……お前は、アンナよりは世間を見る目を持っているようだな」


 冷徹な瞳のまま、お父様が小声で呟きました。


 ん?アンナお姉様はふつうに良縁を得て嫁に行かれたはずですが、あれかな、お父様的にはダメなやつだったのでしょうか……?


「わかった。プリィには来週から一般教養とマナーの教師を付けよう。ダンスの講師もだ。手配はオフィーリア、お前に任せる。いいな?」


「そんな……!あなた、プリィはまだこんなに幼いのに……」


 名指しされたお母様が口を挟もうとしましたが、侯爵家当主のお父様の言葉は絶対です。


「ありがとうございます、お父様!わたくし頑張りますわ!」



(さあ、これが始まりよ、プレッツェル・ラノーバ!肥溜めエンドを回避するために、日々研鑽に努めるのです!)



 可哀想な瞳で見つめてくるお母様とお兄様を尻目に、わたくしとネリーは、手を取り合ってはしゃいだのでした。



続きは随時上げていきます。

よろしくおねがいします。

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