創世記
昔々、この世界が生まれるよりも昔。
そこには何もありませんでした。
人や物はおろか、空間すら存在していませんでした。
しかしある時“存在したいという心”が生まれました。
主の始まりでした。
主は自らの居場所として、まず心の世界を創りました。
そこはどこまでも続く白い世界でした。
主はその世界を漂いながら、永遠の様に長い時間を過ごしていました。
その長い時間の中で、主の中にもうひとつの心が生まれました。
主がもうひとつの心を自分の中から取り出すと、それは点になりました。
しばらくすると、主の中にまた心が生まれました。
それを取り出すと、今度は線になりました。
さらにしばらくすると、またまた主の中に心が生まれました。
それを取り出すと、今度は円になりました。
主は、自分の中に生まれてくる心を次々に取り出していきます。
こうして心の世界には、様々な形の心が満ちていきました。
心達は主と共に心の世界を広げていきました。
しかしある時、心のひとつが思いました。
「ここにはたくさんの心があるけれど、それ以外何も無い」
そこでその心は、心達を実在させたいと思い始めました。
しかし、そこには何もありませんでした。
その心は思い付きます。
「騙してやろう」
その心は何も無い場所を正と負に揺らしました。
すると、何かが実在しました。
しかしそれはすぐに消えてしまいます。
その心は強く揺らしました。
一瞬大きな何かが実在しましたが、その実在が持つ正と負が打ち消しあってやはり消えてしまいます。
その心は精一杯の力で、強く強く揺らし続けました。
そしてある時、その実在は消えませんでした。
揺らぎは一瞬にして大きくなり、とても強い実在が生まれました。
その心は驚きましたが、その実在が止めどなく大きくなっていくのを見て、とても喜びました。
それを知った主は怒りました。
実在が誕生した事によって、心の世界が侵され始めたからです。
主は均衡を破ったその心を心の世界から追放しました。
そして実在をも消し飛ばそうとしましたが、とても強く大きくなっていた実在は主を含めた心達にとってはもはやどうする事も出来ませんでした。
そこで主は考えを変えて、追放した心が作り上げた実在を見守っていく事にしました。
そうして私達の世界が生まれました。