395回目 柊領 トモル軍
ヒライワツミ王国。
トモルの生まれた国である。
その辺境である、イツキヤマ。
トモルの出身地である。
山がちな地形で、それが天然の要塞となっている。
そんな山脈の間にある平原。
そこにトモルの柊領がある。
その柊領の更に奥地、人里から離れた方向。
山の向こうにあたる地域は、モンスター領域と呼ばれている。
その呼び方が示すように、モンスターが支配する領域だ。
人間はいないと言われている。
だが、そのモンスター領域から、続々と人間の兵団がやってくる。
それも、この世界にない機械に乗って。
自動車。
それが次々にやってきて、兵士や物資を運び込んでくる。
それを知らない柊領の者達は、初めて見る機械に驚く。
「あれはなんだ?」
「馬車……なのか?」
「馬がつながってないが」
「どうやって動いてるんだ?」
口々にそう言いながら、興味津々に見つめてる。
また、それらがおろしていく荷物はともかく。
兵士の方も興味がむいていく。
それもまた、この世界では初めて見るものだからだ。
全員、意外なことに軽装だ。
この世界の防具の基準からすれば。
いずれも革製の防具に薄い鉄板がぬいつけられたものだけ。
それなりの防御力はあるが、鎖帷子や板金鎧のような防御力は無い。
戦闘に入れば、かなり不利になりそうである。
動きやすくはあるのだが。
また、頭にかぶってる兜も特徴的だ。
鍋を逆さにして被ってるような。
構造的に簡素で量産はしやすいだろうが。
しかし、頭全体を覆うような兜に比べると、いささか心許ない。
手にした武器も不可解なものだった。
槍のようではあるのだが。
全長が短い。
二メートルもないだろう。
穂先も含めて、150センチくらいだろうか。
戦闘用の槍としては短すぎる。
しかも、妙な突起がついている。
手で握る部分もあるが。
それが不思議なことに、槍に直角に突き出している。
「あれは何なんだ?」
「変な槍だな」
誰もがそう思った。
彼らは知らない。
兵士が乗ってきたのが自動車と呼ばれるものであるのを。
そして、兵士が持ってる武器。
それが銃剣を付けた歩兵銃である事を。
それがどれほどの威力を持つのか。
トモル領の中にまで入り込む事のない者達は知らない。
初めて見る軍勢がどれほど強力なのかも。
それでも興味をかき立てられる。
新奇な者は人の目と興味を引く。
それが野次馬を次々に集める事となる。
その整理で、治安担当の警察もやってくる。
「ほら、散った散った」
無駄だと思いつつも指示をする警察。
モンスター領からやってきた彼らは、物珍しそうに集まってくる人々をさばいていく。
彼らからすればある程度見慣れたものなので、自動車も銃もそれほど珍しいものではない。 なので、気を取られる事無く仕事にうちこむ事が出来る。
それでも、集まってきた者達の気持ちも分かる。
ある程度慣れはしたが、彼らにも自動車などはまだ珍しいものだ。
どうしたって気になりはする。
野次馬よりはいくらかマシというだけで。
それでも職務を忠実にこなすべく、野次馬誘導をしていく。
「それ以上近づかないように。
近づいたらこっちも容赦出来なくなるからな」
「領主様からお許しは出ている。
言うことを聞かないと、この場で手討ちにするぞ」
極力穏やかに物騒な事を伝えていく。
それを聞いて、さすがに野次馬も大人しくなる。
彼らも自分達の領主がどれだけ容赦がないか知っている。
やると言ったらためらわずにやる。
だから無茶をするような馬鹿も大人しくしていく。
聞き分けのよさを発揮する野次馬達。
そんな者達をかき分けて、軍勢は集結していく。
初動で動員した2個連隊、約2500人。
それが動き出していく。
これに加え、輸送隊である自動車部隊がやってきている。
これもまた1個連隊規模。
当面はトモル領と柊領の間を往復し、兵員の移動にはげむ事になる。
モンスター領域側のトモル領には、鉄道駅があるのだが。
そこから柊領までは道路が一つあるだけである。
外部に極力情報を漏らさないために、機械などを設置してないからだ。
おかげで、鉄道駅からの移動は自動車に頼る事になる。
更にそこから後続がやってくる。
火力支援の砲兵と、補給部隊。
更に、戦闘用自動車の部隊。
これらが後続として集まってくる。
それらが事前に決められた通りに展開し、次の出発に備えていく。
「なんか、凄いな」
集まっていた野次馬がそんな事をもらす。
目の前にいる軍勢がどれほど凄いのかも分からずに。




