388回目 結婚式は出会いの場
「相手に何か問題でも?」
「いや、問題という事は無い。
相手はよい子だしな」
「父さんも知ってる相手ですか」
「もちろんだ。
柊領で一緒だった連中だ」
「ああ、なるほど」
それで合点がいった。
弟妹の気になる相手というのは、元々の柊領の者なのだろう。
子供の頃から一緒なので、馴染みとなればそういった者達になる。
つまり、一般的な民衆だ。
最も地位の高い者でも、庄屋がせいぜいだ。
「悪い子達ではない。
よい子なのは知っている。
だがな、これからの事を考えるとな」
そこが父の悩みどころらしい。
急激に成長した柊家である。
いきなり上位の貴族との接点が出来て、それらとの繋がりが出来たといってもだ。
旧来の一般庶民との接点がなくなるわけではない。
むしろ、そういった者達との接点の方が根強い。
当然、子供達もそれらとの接点が強い。
配偶者として、それらを意識するのも当然だ。
トモルだって、その一人を嫁にしてるのだから。
「とはいえ、貴族の繋がりだけで、それを潰すのもな。
さすがにそこまで酷いことは出来ん」
「でしょうね」
全くもってその通りである。
いくら地位がいきなり上がったとはいえ、今までの繋がりを断ち切るわけにはいかない。
余程の悪縁でない限りは。
「そんなわけでな。
子供達の相手の大半は地元の人間だ。
そうでなくても、学校で出会った者と懇意にしてる」
貴族同士の繋がりとなれば、主に学校で出来上がる。
あとは、幼少期に上位の貴族にお呼ばれして子供同士で接点を作るか。
「そういう付き合いを潰すのもな」
父としてはそこが気がかりであるようだ。
「なら、それは柊家でどうにかしましょう」
トモルはあっさりとそう言った。
「我が家の相手が既に決まってるなら、それは仕方ありません。
でも、まだ相手の決まってないのは、一族の中には何人かいるでしょう。
それを紹介しましょう」
「なるほど」
確かに、と父も頷く。
辺境王族や旧氏族などの求める相手ではないかもしれない。
彼らが求めてるのは、トモルとの直接の繋がりだろう。
せめて、その兄弟という近い立場の者との接点が欲しいはず。
しかし、それが無理だというなら、より広い意味での柊家にまわすしかない。
「中には我が家より地位の高い者もいますし。
そこに全部押しつけてしまいましょう」
「酷い言い方だな」
「でも、そうするしかないですから」
他に良い案があるなら、とっくにそれを実行している。
「幸い、一族全体なら、相手が決まってない者もそれなりにいます。
問題がある者はともかく、そうでない者を紹介していきましょう」
「それはまあ、そうした方が良いだろうが」
「幸い、結婚式にあわせて、あちこちから人が来ます。
これを機会に、接点を作っていきましょう」
「…………自分の結婚式をお見合い会場にするつもりか」
「幸せは皆と分かちあうべきですから」
ぬけぬけと言い放つ。
そんな息子に父は何度目か分からぬあきれ顔を向けた。
息子もそんな父を笑顔で迎え撃った。
「だが、そういう事なら、一族に伝えておこう。
乗り気になる者もいるだろうし」
「お願いします。
ただ、ダメな奴はこちらではじきますから」
「ああ、それはそうしてくれ」
どうしたってダメな人間というのはいる。
そんな者にまで良縁を回す必要は無い。
そのあたり、トモルは冷徹で冷淡だった。
ダメな奴を見てきてうんざりしてきたからだ。
その代表例が、幼い頃のタケジであり。
少し年齢が上がってからの森園家であり。
学校にあがってから見た、学校を支配していた連中であり。
その背後にいた藤園家である。
そんなのと似たような、同じような輩にまで回す幸せはない。
むしろ、そういった者は取り除いていかねばならない。
でないと、一緒になった者を不幸にする。
それだけはなんとしても避けたかった。
「しかし、あいつらがねえ」
色々考えながら、自分の弟妹の事も思う。
「いつのまにか、そういう年頃になってたんですね」
「当たり前だ」
父はさすがに憮然とする。
「もう少し家に顔を出せ。
でないから、あの子らの事が分からなくなるんだ」
「はいはい、そのうちに」
全く信頼のおけない返事をして、トモルはごまかした。
実家に行くのも面倒なので、可能な限り避けていた。
今だって、それほど接点が必要とは思ってない。
ただ。
(まあ、たまには顔を出すか)
なんとなくそんな風に思いはした。
それがいつになるのかは分からなかったが。
続きは金曜日に
書き溜めておかねばならん




