382回目 大変な話が終わったと思ったら、主に家庭的な大変な話になっていく 3
ナオとケイ。
二人も嫁に加えるという話は既に出ている。
だが、それは今のところ成就せずに今に至っていた。
サエとサナエの出産に加え、トモルの仕事が思いのほか忙しくなったからだ。
一応、準備はしているのだが、計画段階で止まっている。
両家の親とも話をつけているので、あとは実行するだけであるのだが。
「なにぶん、時間の空きを作る事が出来なくて」
実現にいたらない理由はそこだった。
「確かになあ……」
辺境王族も納得する。
トモルの忙しさは傍目に見ていても分かるほどだ。
新たな嫁を迎える余裕もないのだろう。
「しかし、このままというのもな」
「まったくです」
反論しようもない。
待たせてるのは確かなのだから、さっさと結果を出さねばならない。
「そろそろ余裕も出てきたので。
そろそろ式をあげようかと」
「うん、そうした方が良いだろう」
忙しいのは相変わらずだが、最近は人に任せる事が出来るようになった。
その分、仕事は楽になってきている。
式をねじ込む時間は捻出できるようになった。
「近いうちに必ず」
「そうだな。
早く安心させてやるといい。
相手も待ってるだろう」
「はい」
実際、ナオとケイの二人は待たせ過ぎたと思う。
三年である。
話が出てからそれだけ経っている。
待たせるにも程があるというもの。
「早く伝えてやってくれ」
「はい、そうします」
辺境王族の言葉に頷く。
本当に急ぐつもりだった。
決まっていた話を今まで延ばしていたのだから。
「まあ、これで懸念が一つ消えるな」
「そうですね」
互いに苦笑を浮かべる。
領内の発展と今後の行動。
政治的な話とは別に存在する、片付けねばならない事。
その一つが、ようやく解消される。
「もっとも」
「はい」
「そこからがまた始まりではあるのだがかな」
「まったくです」
結婚で一つの事が片付く。
しかし、それで終わりではない。
そこからは夫婦としての日々が始まる。
それで終わりというわけではない。
「また忙しくなるな」
「まったくです」
「男としての甲斐性を見せないと」
「その通りです」
「頑張って切り盛りするんだぞ」
「はい……」
発生するであろう女同士のいざこざ。
それをどうするかもトモルの力量次第となる。
考えると頭がいたい。
「しかし、男としては羨ましくもある」
「それは……」
「いや、儂も側室の一人でもいればと思う事はあるからな」
「なるほど」
そういうものではあるのかもしれない。
実際にやったら、それはそれで面倒と手間が増えるが。
「ああ、言っておくが」
「なんでしょう?」
「女房が気に入らないわけではない。
あれは儂に過ぎたる女だ。
この縁に感謝している」
「でしょうね」
辺境王族と正室の関係は仲睦まじい。
両者ともに政略結婚の側面はある。
辺境にいる王族の末席であっても、それは免れない。
しかし、そんな王族だからこそ、面倒な駆け引きもなくすんなり相手が決まったという。
特に騒動もなく結ばれた辺境王族と正室。
二人はほどよい結婚生活を送ってきたという。
政治とは縁が無いのも大きかったのかもしれない。
正室が藤園などの大貴族ではなく、旧氏族の出身というのも大きいだろう。
力のない旧氏族だが、逆に言えば政治的な駆け引きとは無縁だ。
出身一族や政治を気にする事もない。
だからこそ、腹の探り合いをしないで済んでいる。
それが辺境王族には心地よいらしい。
「儂には、あれ一人で十分だ。
身に余る」
「その幸せ、羨ましいものです」
「なんの、お前も絶世の佳人をめとってるであろう」
「それはもう。
我が身に過ぎたる女ばかりです」
「そう言われると、少し羨ましくなるな。
それでも女房が一番だが」
「……そう素面で惚気られると、聞いてるこちらが赤面します」
「それが狙いだ。
一つくらい、お前から一本取りたいからな」
「これはしたり」
そんな女房自慢をしながら話を進めていく。
特に意味の無い、腹の探り合いもないやりとり。
それが今の二人にはありがたい。
政治の渦中に飛び込んでいる。
常にこれからの行動について考えている。
そんな中にあって、戯れ言を言い合える時間は貴重なものだった。
「ま、お互いの女房が、お互いにとって一番だと」
「まことにその通りかと」
「話はここで留めておくのが良いのだろうな」
「まったくです」
話はそういう所に落ち着く。
「ただな」
「はい」
「出来ればこちらからも何人か嫁をもらってもらいたいのだが」
そんな提案もしてくる。
「どうかな?」




