377回目 招いた辺境王族に社会見学をしてもらうついでに、今後についても考えてもらう
「見事と言うほかないな」
トモルの屋敷を訪れた辺境王族。
彼らは足を踏み入れたトモル領地にある様々な文物に圧倒された。
その最後にやってきたトモルの屋敷で一息を吐きながらの言葉だ。
「なるほど、これがそなたの強みか」
「まあ、そうなりますね」
今日見せた様々なもの。
それについて互いにそう語っていく。
実際、辺境王族は呆気にとられた。
口が開いたままポカンとしてしまう。
そんな場面ばかりだった。
それはそうだろう。
危険極まりないモンスター領域。
そう思っていた場所が、おそろしく先進的な地域に変わっていたのだから。
密集する工場による工業地帯に驚き。
巨大な鉄道に驚き。
それに乗車して速度に驚き。
その先にある町や村に驚き。
ようやく形になった自動車に驚き。
試験的に作られた発電所に驚き。
電気で灯る電灯に驚き。
電気で動く発動機に驚き。
とにかく驚き通しだ。
「あれほどのものがあるとは……」
それは素直な感想だろう。
なにせ、この世界には無かったものなのだから。
そんな辺境王族に、
「まだまだ小さなものですが」
とトモルは応える。
「あれでもまだ小さいと?!」
トモルの言葉に辺境王族は驚く。
「もちろんですよ。
工場も小さいし。
発電所だってまだまだ小さい。
とにかく色々なものがまだ小さいですよ」
「なんと……」
その言葉に辺境王族は愕然となる。
実際、この世界に出来たものはまだ小さなものだった。
工場は小さな体育館程度。
機関車は初期のまだ小さなもの。
発電所にしても、日本にあったような巨大なものではない。
いずれも初歩的な、まだまだ発展の余地のあるものばかりだ。
「この程度じゃ終わりませんよ。
これからまだどんどん発展していきます」
「信じられんな……。
いや、お主が嘘を言ってるとは思わんが」
「まあ、実際に目で見るまでは信じられないでしょう。
でも、事実です」
このまま発展を続ければ、いずれもっと巨大化していく。
そして効率化していく。
「現在、更なる発展を見込んでます。
より巨大に、もっと大きくなるように」
「むう……」
その言葉に辺境王族はうねるしかなかった。
今ですら辺境王族が知るあらゆる地域を上回っている。
それが更に発展するというのだ。
「想像も出来んな」
それが正直な感想だ。
「何にしてもこれからです。
まだ、せねばならない事もありますし」
「そうか。
つまり、そろそろ動き出すということか」
「はい」
頷くトモル。
辺境王族は目を閉じ長い息を吐く。
「そうか。
ついにか」
「はい」
「今更言うのもなんだが。
やるのだな?」
「はい」
「わかった。
もう何も言うまい」
「そう言ってもらえると助かります」
「なんの、乗りかかった船だ。
いや、乗り込んだ船だ。
あとはその方に全てを任す。
頼んだぞ」
「分かってます」
辺境王族は、どこか諦めたような。
それでいて何らかの決意を込めた顔をする。
トモルと縁が出来た三年にもなろうか。
その間にあった様々な出来事。
その中で彼も悟っていった。
トモルという男がどういう人間なのかを。




