375回目 この世界における産業革命 2
発展の勢いはトモルが予想していた通りではある。
しかし、実際にそれを目にすれば、やはり驚く。
「ここまで進むとは……」
どこかで多少引っかかる。
予想通りに物事は進まない。
そう思っていただけに、これは意外だった。
ありがたい事ではあるのだが。
おかげで、求めていたところまで早々と到達する事が出来た。
各種産業の発展。
大量生産が可能な体制。
それがととのいつつある。
ただ、武器の増産体制は後回しにしている。
それらが最も欲しいものではあるのだが。
それを優先していたら、産業そのものの発展の足かせになる。
軍事を支えるのは一般的な産業だ。
一般庶民の生活と言い換えても良い。
これらが豊かになって初めて軍事に手を出す余力が出てくる。
一般的な生活を支えるだけの産業基盤が、軍事技術の生産にも寄与するのだから。
土台となる基礎研究や基礎技術の普及と言っても良い。
これらがなければ、高性能な兵器は作れない。
なので、軍事優先といった策は採ってない。
あらゆる産業基盤の整備。
まずはこれを優先した。
その上で軍事の増大につとめていく。
軍事技術を先に発展させ、それらを一般的な技術や産業に応用する事もあるが。
それでは一般庶民の生活改善や向上につなげるのが難しい。
それでは結局、様々な産業の発展が遅れる。
一般庶民の生活が向上しなくて、どうして余裕が生まれるのか?
生活に余裕があり、教養を身につける機会があり。
豊かになって新たな機器を手に入れる事が出来て。
発展はそうして促されていく。
なのでトモルは、先に一般庶民の生活基盤を確立する事にした。
軍事的な技術などは後回しにして。
取り急ぎ戦力をととのえるために火縄銃は作ったが。
それとて、取り急ぎである。
他の軍事技術のほとんどは、どちらかといえば後回しにしている。
様々な工作機械を造り、それらを普及させて生産体制をととのえ。
そうしてから武器の生産は行なっている。
ただ、どちらかというと、研究・試作のものがほとんどだ。
現段階でどこまで作れるのかを知るために。
なので、出来上がったものを即座に配備、というわけではない。
むしろ、配備は産業の発展の割には遅れがちと言える。
それもやむをえない事ではある。
例えば、銃や大砲。
これを作るにしても、製鉄技術の発展が必要だ。
可能な限り軽く頑丈な鉄。
それが無くては武器など作れるものではない。
ならば製鉄技術を発展させる。
その上で、より性能の良い銃や大砲を作る。
その方が効率的だ。
技術が向上する度に一々大量生産していたら無駄が多くなる。
そうした考えから、まずは一般庶民への技術の普及を優先した。
優れた製品は生活を変える。
一つ一つの作業にかかる時間を減らす。
それが生活の余裕につながる。
仕事でもそれは言える。
同じ労力で今まで以上の成果が出せる。
あるいは、今までと同じ程度なら、労力を減らせる。
費やす時間を減らせる。
その余裕が豊かさであろう。
一人当たりの労力が増えていく。
今までよりも短い時間で、少ない力で事をなせる。
トモル領が発展してる証拠だ。
それは短期間で大きな成果を生み出していく。




