353回目 これ以上の受け入れは無理だから別の方法を考える
「相変わらず驚かせる」
トモルによって地方の統括を担う事になった辺境王族。
その当主は喜びながらも困った顔をする。
「本当に忙しくなった」
ぼやきが口から出るのもやむをえない。
急激に膨らんだ仕事のせいで、最近は全然休めてない。
統治機構の能力を上回るほどの案件が舞い込んできてるのだ。
そうなるのも当然である。
「どうにかならんもんか」
「さすがにこればかりは」
当主の息子も首をすくめる。
なんとかしたくてもどうにも出来ない。
とにかく全てが不足気味である。
「人材育成は進んでますが」
「レベル上昇によるあれか?」
「その通りです。
これでどうにか最低限の人材は確保してますが」
「焼け石に水か」
必要な人間は増えてるが、それ以上に仕事が増加する。
対応しきれるものではない。
「ここらで一度、止まってくれんもんかな」
「そう願いたいところですが。
何せ、藤園の騒動は留まるところを知りません」
それがおさまらなければ、問題はいつまでも続く。
「どうにか取りなせればいいが」
「無理でしょうな」
息子の方はため息を吐く。
「矛を収めようとしませんから」
騒動を起こした方はもとより。
対応する方も動きを止める気配がない。
それらがトモルによるものなのだから当然ではある。
トモルが求めてるのは、全滅するまで騒動を続けること。
どこかで手を打つというようなことは考えてない。
藤園の動きをそうして牽制する為に。
あわよくば、この機会に一気に消滅させる為に。
そう考えてるトモルが、騒動の沈静をするわけがない。
むしろ、どんどん酷い結果になるよう画策していく。
「だが、これでは我らの方が潰れるぞ」
「そこですね」
辺境王族親子は、この先にある予想可能な未来を憂う。
藤園が潰し合ってくれてるのは良い。
だが、それによって流出した者達が押し寄せ続けたらどうなるか。
今ですら対応に追われてるのだ。
これ以上は処理しきれなくなる。
「もう少し緩やかにやってきてくれれば……」
「まことに……」
それでも仕事が忙しくなるのは確実だ。
しかし、今の状態よりはマシである。
「ですが、手を止めるわけにもいきますまい」
「分かってる、分かってはいる」
やらねばならない事は分かっている。
それでも愚痴の一つや二つくらいは、言っていないとやってられない。
「いずれおさまると信じて、焼け石に水をかけ続けるか」
焼けた石に水をかけてもすぐに蒸発する。
しかし、かけ続けていればいずれ石の熱気も消える。
そうなるまでは、ただひたすら水をかけ続けるしかない。
問題なのは、その石が延々と熱され炙られ続けてること。
これでは水をかけても意味が無い。
「さすがにどうにかしてもらわんと」
王族はやむなくトモルに使者を出す。
受け入れてくれるとは思ってはいないが。
それでも、現状を伝え、対応をするよう求めるしかない。
「これ以上は、さすがに無理だ」
「さすがに無理か」
使者から話を聞いたトモルは、考えはじめる。
王族の文句はしょうがないとは思ってる。
大変な状況なのは間違いないのだから。
それでいったいどうするかである。
可能な限り人を収容したいところではあるのだ。
人口を確保して、経済基盤を作り出す。
それによって勢力を増大させる。
藤園に対抗出来るように。
しかし今のままでは収容先の各地が潰れてしまう。
それも分かっている。
時間をかければどうにかなるだろうが。
その時間が無い。
「まあ、なんとかしよう」
使者にそう伝えて王族のところへ帰す。
放置しておくわけにもいかない。
まずは逃亡者や避難民をトモルの所で受け入れる。
もともとそうしていたが、その規模を一気に拡大する。
幸い、入植場所はいくらでもある。
人手をほしがってる事業者もいる。
それらに放り込めば、ある程度は吸収出来る。
ただ、何の訓練も知識も技術もない者達を放り込むわけにもいかない。
モンスター退治によるレベル上昇をさせてからになる。
それまではしばらくトモルの方で負担せねばならないだろう。
やってきた者達が労働力になるまで、数ヶ月は様子を見なければならない。
だが、吸収しきれない者達もいる。
それらについては、トモル側での受け入れを一時停止するしかない。
貴重な労働力を手放す事になるが。
こればかりは諦めるしかない。
ただ、受け入れを無くすわけではない。
段階をもうけて受け入れていくつもりでいる。
今の状況が落ち着いてから。
問題はその間どうするかだ。
放置しておくのももったいない。
(上手く利用できないかな……)
酷いことを考えていく。




