352回目 施しなんか与えない、働いて稼いでもらう
トモルの工作が功を奏してるのか。
彼我の勢力差が少しずつ縮まっていく。
騒乱が様々な被害をもたらし。
それを嫌った者達が逃亡していく。
それらはまだしも平穏な地域へと逃れていく。
これにより、人口という勢力の土台が変化していった。
自力で逃れられない者達には、トモルが支援をしていく。
移動のための手段と、逃亡先でのとりあえずの生活が出来るだけの食料など。
それらを調達していく。
仮の住居としてのテントなども。
これらはあくまで一時しのぎの手段だ。
さすがに長期にわたってそんな生活をさせるわけにもいかない。
と同時に、遊ばせておくつもりはトモルにはない。
働かざる者食うべからず。
生きていく上での原則である。
そもそも、食わせておくほどの余裕がないというのもある。
いきなり大量に押しかけたら絶対に食料などが足りなくなる。
トモルが開拓した領域では生産力が上がってはいるが。
それでも、急激に増大する消費量に対応は出来ない。
農法や農機具などの改善は行われている。
品種改良なども進んでおり、一部では収穫量の多い作物の栽培も始まっている。
だが、それらが普及するまでにはまだ時間がかかる。
それらで増大する消費を賄う事は出来ない。
なので、逃げ込んできた者達にも働いてもらう。
農民には新たな開墾地を与え。
職人や商人には本来の仕事が出来るように。
単純労働者などにも、様々な雑務が回るように手配していく。
それでもあぶれる者は出てくるが、こればかりはしょうがない。
急激に膨れ上がった人口に対応しきれないのだから。
そんな者達の、当座の支えとして最低限の食料や住処は提供する。
しかし、それは粗末なものにしていく。
居心地を良くしたら住み着いてしまう。
そうならないようにする為だ。
施しなぞ絶対にしない。
トモルはこれを徹底した。
施しとは、一方的な搾取である。
誰かに負担を強いて、別の誰かを生かしているだけだ。
何の見返りもない。
これほど悪逆非道なことはない。
助け合いというものをことごとく否定しているからだ。
助け合いというならば、何らかの形で提供し合わねばならない。
さもなくば、互いに接触を断たねばならない。
でなければ助け合いにならない。
一方的に助けてるだけなのは、助け合いではない。
負担だけをしいられる援助は続かない。
負担をするのは、何かしら利益があるからだ。
それが無いならば、ただの重荷でしか無い。
形を変えた物々交換のようなものだ。
互いに必要なもの、欲しいものを提供し合う。
それによって互いに得をする。
一時的に損をしても、後日何らかの形でお返しがあるなら良い。
それがないなら、一方が疲弊し、潰えていくだけだ。
そして、一方が生き残る。
これほどの理不尽はない。
今も逃亡者・避難民を賄うだけではいずれ潰える。
逃げてきた者達をかくまうのは良いとしてもだ。
それらが生産的な事を何もせずにいるというなら、そのうち受け入れ先が崩壊する。
施しとは、そんな未来をもたらす破滅の道でしかない。
その為、トモルは各地にて無料の施しを最初だけ与えていった。
着の身着のままで逃げてきた者達だっている。
そういった者達には、数日はしのげる程度の施しはした。
だが、それ以上は与えない。
そこからは何らかの形で稼がせる。
稼いで得た金で生活をさせる。
もちろん、そんな仕事がそうそうあるものではない。
だから、そこはトモルも多少は金を出した。
労働の対価として。
空いてる土地があるならば、そこを開墾させる。
水路が必要ならそれを作らせる。
堤防が必要な地域だってある。
橋を架ける必要もある。
それらの材料を採取採掘せねばならない。
その為の作業をさせる。
その対価として賃金を出す。
そうして生活基盤も作らせていく。
逃げ延びた先の発展にもなる。
そして自活出来るようになれば、あとは勝手に生きていく。
そうした事を直接おこなう事もあった。
だが、それよりもトモルは、現地の領主などを間にたてる事にした。
必要な事業を行うための資金。
それを各地の領主や商人、職人らに貸し付けた。
そうする事で、取りっぱぐれを少しでも減らせるようにしていく。
事業を直接行うとなると、資金を回収できるかどうか分からない。
だから、業者にやらせる事にした。
資金を貸し付けながら。
直接指示を出すよりも楽なのでそうしていた。
それでも貸した金が踏み倒される可能性もある。
そうならないように精神制御の魔術をかける事も出来たが。
それはしなかった。
代わりに、相手の居場所が分かるように魔術探知の印を付けていった。
入れ墨のように体に付けられる魔術印。
返済が不当に滞れば、それをもとに位置を特定してしかるべき処分をする。
それも条件に加えて。
なお、貸すにあたり、金利もつけた。
貸出金額の一割を加えて返すように。
100万円を借りたら、110万円で返せという形になる。
複利計算ではないので、総額がこれだけになる。
そして返済期限であるが。
これは長目にとっていった。
基本的に50年。
最大100年。
これが返済期限である。
ただ、さすがに50年後に一括返済、というような事はしなかった。
10年区切りで返済額の一割を返すように。
これも条件に加えていった。
前倒しで返せるならこの限りでは無いが。
この条件に様々な業者が殺到した。
それだけの猶予があるならどうにかなるだろうと考えて。
実際、様々な需要がある。
商売の機会は多くて大きい。
この機会を狙って事業を拡大する者も出てきた。
そんなわけで、逃亡者や避難民の出向いた先は、活況に賑わった。
これまで、思うように整備が出来なかった事が次々に進んでいく。
もともと寂れていた地域である。
それが一気に開発が進み、これまでにはない盛況となっていく。
いずれも藤園と縁が無かったというのが大きい。
その為、どうしても様々な面で冷遇されていた。
だが、今回の事でそれが反転していく。
藤園と縁がなかったから、騒動に巻き込まれない。
逃亡者達が逃げ込む事が出来る。
また、争いに関係がないから、被害が出ない。
全くないとは言わないが、藤園の当事者達ほどではない。
そういった所にいる者達にとっては、今回の騒動はありがたいものだった。
いっそ、このまま続いてくれないかと思う者もいた。
そんな所にトモルは、辺境王族を売り込んでいく。
いっそ、王族の下でまとまらないかと。
そうすれば、トモルとしても支援を考えると。
状況が状況なので、多くの貴族がそれに賛同していった。
当然ながら、藤園とその関係者は除いた。
声もかけないし、押しかけてきたら撃退する。
もちろん生かして返しはしない。
首と胴体を分断するくらいはした。
そうしなければ、何度も何度も押しかけてくるからだ。
そんなの相手にしてられない。
場合によっては貴族や領主をまるごと処分した。
様々な理由をつけて。
王族がいるから、理由を付けるのに困らない。
相手にしないと言ってるのに押しかけてきたとか。
王族の指示を無視して不当な動きをしたとか。
たとえ難癖であっても、理由などいくらでもでっち上げる事ができる。
それが悪いとは思わない。
藤園がやっていた手口である。
同じ事をやり返して何が悪いというのか。
そうして出来た空き地には、旧氏族を流し込む。
没落していた者達もこれで息を吹き返していく。
そんな旧氏族がだんだんと足りなくなっていく。
その為、あちこちに潜んでいた者達を回収する羽目にもなった。
とにかく頭数が必要だった。
他の王族との合流も果たしていく。
それにより、王族同士の連携による勢力圏が出来上がりつつあった。
今までは、名目上の統治者であった王族だったが。
今では名実ともに地方の頂点を統括するようになった。
その王族を誰がまとめるのかでは少々もめた。
トモルはそれを、
「俺はこの人たちを支持している。
それに従えないならもう相手にしない」
と言って黙らせた。
そうしてトモルの近くに住んでいた辺境王族は、地方の王族を束ねる事になった。




