343回目 かつての行いが今に響いている
「話はサナエ様から何度か聞いてました」
学生時代の事である。
サナエが不当な扱いをされそうになった時。
それを助けた者がいると。
「サナエ様はそれを手紙で綴っておりました。
帰省でご帰宅なさった時も」
ナオがトモルを知った経緯である。
「その頃は子供だったので、何があったのかは知りませんでしたが。
ただ、雰囲気が悪かったのはおぼえてます」
仕える主とその臣下。
そういう立場だったので、詳しい事情が分かるわけもない。
ただ、伝わるものはあるようで、サナエの実家の雰囲気は良くはなかった。
それは臣下にも伝わる。
「そんな時に、サナエ様から手紙が届き。
それを境に雰囲気が変わっていきました」
トモルが学校の内部ににらみをきかせ始めた頃だ。
色々と内部粛清を行なっていき、学校を過ごしやすくしていた。
その時に出した手紙だったのだろう。
「凄い人がいて、学校が変わってると。
帰ってきたサナエ様が楽しそうにそう話していました」
それだけ劇的な出来事だったのだろう。
思い出せる事を、それはそれは楽しげに語った。
「まだ内容はよくわかってませんでしたが。
それでも、凄い事になってるというのだけは伝わってきました」
更にその後、藤園の姫が卒業式で大暴露をして。
学校やその周辺の問題があらわになり。
様々な波面を起こしたこと。
それがサナエの実家であり、ナオの主のところまで伝わってきたこと。
直接の影響はあまりなかったが、主が心の底から安堵したこと。
それはナオの家にも伝わってきた。
「これで無理難題は減る。
そう考えていたようです、主は」
藤園からの圧力はかなり減っていたが。
それがいつまで続くのかという不安はあった。
だが、その一件が決め手になった。
サナエの父である羽川氏は、これ以上不当な事はないだろうと確信したという。
「実際、その通りになりましたし」
それをもたらした者は、サナエの実家において救世主だった。
藤園による無理強いを消滅させたのだから。
その当人と娘が懇意にしている。
これほど大きな繋がりは無い。
そこにサナエの実家は賭けた。
下手したら自分達が潰れる可能性がある。
連座で処分されるかもしれない。
貴族でなくなるくらいなら良い。
一族郎党斬首という可能性もある。
あるいは、生きながらにして地獄を味わうかもしれない。
しかし。
「それでも当主は、それでも良いと考えました」
娘を救った者に賭けてみよう。
どうせこのままでも、不当な圧力で潰されるのがオチだ。
そうなるくらいなら、のるかそるかの賭けに出ようと。
どれほど分が悪くても。
そんな雰囲気にあてられ、ナオも考えた。
そこまでさせるのはどういう人なのだろうと。
ちょっとした好奇心から始まった興味。
だが、それがあるからサナエの警護に名乗り出た。
気になっていた人にあえると思って。
「それでこうなってると」
話を聞いたトモルはなんとも言えない気持ちになった。
「そこまで持ち上げられると、逆に困るな」
苦笑するしかない。
評価されてるのはありがたいが。
「間違ってはいないと思いますよ」
ナオはトモルへの評価は妥当なものだと思っている。
「全てを見たわけではありませんが。
これほどの事をしてるのですから。
それが出来るほどの傑物なのは確かかと」
自分の目で見た感想だ。
トモルに連れられてモンスターの巣に突撃した。
その途中、トモルの領域も目にした。
モンスター領域とされていた地域。
そこは大きく発展していた。
新たな田畑と入植者。
運び込まれる様々な鉱物と、それを扱う多大な工房。
そこかしこを走り回る行商人や物流業者。
あふれる人々と軒を連ねる商店。
活気がそこにあった。
「それに、モンスターの巣では後押しもしてくれましたし」
強化魔術による能力上昇。
それの強力さにナオは目を見張った。
おかげで大量にいるモンスターも難なく駆逐していける。
「それが出来るほどの強化が出来る。
それだけの力を持ってる人なのだと」
統治者としても個人としても優れている。
それだけでも異能の人と言えるだろう。
「何より、悪事を許さない」
それが何より心に響いた。
力をもつ事で人は本性をさらけだす。
力をもって変わった、と言われることもあるが、それは違う。
本来もっていたものが、力を得て表に出てきただけだ。
横暴になった人間は、それが出来ないから大人しくしていただけである。
それは、権力を得て好き勝手している藤園とその周辺の連中が示している。
だが、トモルはそうではない。
力を使って横暴・暴虐な連中を叩きのめしている。
それでいて、真っ当に生活してる者達には手を出さない。
望めばそれらからいくらでも搾り取る事が出来るにもかかわらず。
それどころか、得にはなりそうもない救済までしている。
サナエもそうだし、貴族の学校もだ。
それによって救われた者はいるが、トモルが得をしてるかどうかは分からない。




