342回目 みんな仲良く病は避けねばならない
ナオとの対談は、それから程なく行われた。
とりあえず一対一での対面。
お互い少々緊張した面持ちで。
なんとなく、
(これ、面接みたいだな)
前世を思い出しながらそう感じた。
実際、実態はそんなもんである。
相手の意思の確認。
双方の要望の確認。
入社……ではないが、永久就職後に求められるものの確認。
これらを行うのだ。
面接というのも間違いではない。
そこまで大げさにするつもりはないが。
これからの人生がかかっている。
緊張もするし、慎重にもなろう。
向かい合って座りながらも、話がはずまない。
「まあ、なんだ」
「はい」
「話は聞いたが、輿入れするつもりはあると」
「はい……そのつもりではいます」
「そうか」
短くこたえて頷く。
悪い気はしない。
ナオは美人だ。
添い遂げると言われて悪い気はしない。
だが、それで「なら、一緒になろう」とまでは踏み込めない。
「念のために聞いておくけど、何がいいんだ?」
無粋だとは思う。
だが、これがはっきりしないと先に進まない。
「男ならいくらでもいるだろ。
いい男だって」
隔絶した能力はともかく、それ以外の面でトモルより良い者はそれなりにいる。
にもかかわらずトモルを選ぶのは何故か。
「家の事とか、そういうしがらみでも構わん。
それが理由ならはっきり言ってほしい」
そうであるならば割り切る事も出来る。
トモルもそれなりに対応が出来る。
「ここは正直に答えてくれ。
その方がお互いのため、今後のためにもなる」
嘘はどれほど美しくても決して人を幸せにしない。
何かを隠していれば、それは結局誰かが不幸になる。
何はなくとも当事者が。
そして周囲の者達が。
そんな事になるくらいなら、最初の段階で本音を言った方がいい。
暴言や罵倒はともかくとして。
言うべきことを伝えねばならない。
相手の本音も聞かねばならない。
その上で、折り合いが付くなら良し。
それが無理ならば、そこで別れる。
そうなる方が一番良い。
仲良くするために妥協するのが一番最悪だ。
みんな仲良く病。
トモルはそう呼んでいる。
不平不満を押し殺して、ただ一緒にいる。
そんな言動行動を指しての言葉だ。
これは、分離しての行動、役割分担すらも否定する。
全員が同じ行動をとる。
全員が同じ言動をする。
そうでないものは許さない。
常に同じでなくては気が済まない。
そんな状態の強要。
独裁。
あるいは圧政。
そう言い換える事もできる。
一人一人の意思だとか。
効率などは全く考えない。
ただ、一緒にいる事。
ただ同じ行動をする事。
それだけが優先される。
トモルはこれを異常だと思っている。
家の都合による結婚などもその一つだと考えている。
折り合いがつかない者同士に、無理矢理折り合いをつけさせる。
どうしたってそこには無理が発生する。
それなのに強行する。
これが異常でなければ何なのか?
その先にあるのは、不幸でしかない。
衰退・破滅・滅亡である。
だから、まずは本音を聞き出しておきたかった。
「────と考えてる」
一通り自分の考えを示す。
その上で、
「俺はお前さんを嫁に加える事が出来るなら嬉しいとは思う。
美人さんが増えるのは大歓迎だ」
欲望丸出しの発言である。
だが、偽らざる本音だ。
「けど、それは俺の都合だ。
お前の都合じゃない。
だから、はっきりさせてほしい。
どう考えてるのかを」
それがトモルが突きつける条件である。
ここで嘘をつくならお話にならない。
「あと、実家への援助とか。
何かしらの便宜だとか。
必要なら図る。
こちらの利点になるならな」
そうも付け加える。
「そういうのが必要なら、良い機会だ。
ここで言ってくれ」
それがトモルにとっても利益になるなら、ためらう事無く支援・支持する。
「ただ、これだけははっきりしておく」
勘違いをしないよう、線引きもしっかりしておく。
「俺は身内になったからって容赦しない。
使えない、邪魔になると思えば切り捨てる。
むしろ、身内だから余所の連中より厳しく見る。
獅子身中の虫なんて、さっさと潰すに限るからな」
親類縁者になったというだけで保護対象にはしない。
これは絶対に譲る事が出来ない一線だった。
「助け合いってんなら、助け合う。
ただ、助け合いって言いながら一方的な援助を引きだそうってんなら潰す」
それはもう助け合いになってない。
互いに何か出し合うからこそ、助け合いという。
それがないなら、一方的な搾取である。
収奪、強盗でしかない。
「そんなつもりは無いだろうけど。
実際どう思ってるのか。
そこをはっきり聞かせてくれ」
言うだけ言った。
あとはナオが口を開くだけである。
そのナオは、
「家のことはどうでも構いません」
そう言って語り始める。
「トモル殿のそういう所も含めて好ましいとおもってます」




