341回目 トントン拍子に進んでいく、新たな嫁取り話
(手際の良いことで)
サナエの、女衆の根回しというか。
動きの良さに舌を巻く。
(これが女の横の繋がりか)
情報網というかなんというか。
その繋がりは馬鹿に出来ないものがある。
「それで、ナオも嫁に?」
「そうしてくれると助かります」
「誰が?」
助かるという言い方が少し気になる。
「とりあえず本人が」
本人が望んでるならありがたい。
余計な面倒が絡んでくる事は無い。
嫁同士の牽制などはあるかもしれないが。
「でも、余計な面倒もついてくるんじゃないのか?
家とか」
「それは付きものですから」
程度の違いはあるだろうが、大なり小なり付きまとう。
これは仕方が無い部分はある。
親戚づきあいが始まるのだ。
何かしら縁はでてくる。
しがらみも。
それを完全に断ち切る事は出来ない。
当事者の規律や道義性による。
トモルとしてはそこが心配なところだった。
親戚だからと付きまとってくるなら、それなりの対応をするしかない。
たとえ縁が出来たとしても、不当な要求は許さない。
むしろ、親戚だからと要求をしてくるような輩は根絶する。
そのつもりでいる。
なんとなれば、それが貴族社会だからだ。
親類縁者である、その一点でつながりをつくる。
派閥の母体である事もある。
それは本来有るべき姿から逸脱してると考えている。
結婚によってどうして派閥が形成されるのか?
そんなもの、本人の意思や好みで行うものである。
それを家同士のつながりだとか、派閥だとかを絡める。
だからややこしくなる。
そういったものを切り離して、当事者同士の気持ちを大事にしたかった。
貴族だから、本人の意思や好みなどない、家同士の繋がりが大事。
そんな考えこそ破壊していきたかった。
「結婚は当事者同士の好みの問題であり、家や周囲が強要するものではない」と。
どうしても巻き込まれてしまうが、この部分はどうにかしたいものだった。
「本人と話してみるしかないか」
結局そうなっていく。
トモルの考えや思い。
それを伝えて、相手の意思を確認する。
それで折り合いが付けば良い。
そうならなければ、それまでだ。
「それがよろしいかと」
サナエもそこは頷く。
何にしても当事者の意思や思いが大事だ。
それを無視しても良い結果にはならない。
「あとはナオとお話を」
「ああ、そうする」
そういった場を設けねばと思った。
「それと」
「なんだ?」
「開戦はいつ頃に?」
そう尋ねるサナエ。
「家の中でも色々と準備がありますから。
出来ればある程度の目安は聞いておきたいのですが」
それを聞いてトモルは苦笑する。
(これだよ)
我が女房ながら、肝が太い……そう思わずにはいられなかった。
「それについてはなんともだな。
準備ができ次第としか」
「それで間に合えばいいんですが」
相手あっての事である。
自分一人で進めるものではない。
今は混乱させてるが、敵がそれを無視して攻撃を仕掛けてきたらどうなるか。
「まあ、その時はその時だな」
トモルとしてはそう言うしかない。
ある程度なら、今の状態でも戦える。
だが、そうでなければどうなるか。
そこはなんとも言えない。
ただ、それよりも今は女房から提案された案件である。
「出来るだけ早く、ナオと話をしておきたい。
そういう席を設けられるかな?」
「まあ、それくらいは。
ナオはいつでも身辺警護をしてますから」
「じゃあ、適当なところで」
「ええ、そうしておきます。
でも」
「なんだ?」
「私たちが身重な時に子をなすのは避けてくださいね。
ナオも身動きがとれなくなりますから」
「…………努力する」




