340回目 都合のよい展開と思うかもしれないが、その通りなので疑問を抱く必要は無い
「もう一人?」
思わず聞き返してしまう。
前日に、ケイを嫁にするかどうかで話し合ったというのに。
その直後に予想外の事を嫁から提案されたのだ。
驚いてしまうのも無理は無い。
「そう、もう一人」
「お嫁さんが」
サナエとサエは、かなり真面目な顔でそう告げてくる。
何の事だと思って、
「とりあえず話を聞かせてくれ」
頭を抱えながら尋ねていく。
「戦場のお供です」
言われてトモルは少し考える。
すぐに、なるほどと思いたる。
「なるほど」
言わんとする事はだいたい分かった。
「確かに必要かもな」
まだ先の事だが、トモルは戦争を考えている。
相手はもちろん国内の邪魔な連中だ。
政治的な排除はもちろんだが、手段として戦争ももちろん加えている。
戦争は政治的手段の一つであるというような格言の通りに。
それだけではない。
国内の戦争だけで終わればいいが。
そこをついて他国が攻め込む事も考えられる。
というより、やってこない訳がない。
まだ情報を集めてる段階だが、それらしい動きもある。
どっちにしろ、戦いは避けられない。
そうなると、陣中に籠もりきりになるだろう。
サナエが言ってるのはその時に備えてのものだ。
「陣中に籠もってる間の相手が必要でしょう」
諦めがいくらか籠もった声で、サナエが言う。
「それとも、古式ゆかしい手段をとりますか?」
「いやだな、それは」
即座にトモルは否定する。
古来、戦場に女は連れていけない。
そういう慣習やしきたりがある。
危険な場所に女をつれていかない配慮だろう。
単純に、戦力になりえない者を連れていく負担を無くす為でもあるだろう。
だが、そうなると問題も出てくる。
その一つが、戦場における【種族保存の本能】だ。
古くからその処理をする為に行われていたのが、【性別の超越】だ。
古式ゆかしい手段というのがこれである。
残念ながらトモルにはそういった手段を用いる気持ちはない。
この世界の人間として生まれていたなら、そういう事も素直に受け入れていたかもしれないが。
現代日本(主に昭和後半から令和あたりまで)の価値観を持ってる者としては受け入れがたい。
もちろん、対策は考えている。
これはトモルだけの問題ではない。
率いる軍勢全部の問題になる。
その為、そちら方面を商売にしてる者達を、戦場の後方に配置する予定ではいた。
こういった対処をしておかないと、戦場での略奪が始まるからだ。
この場合の略奪対象は、物体だけにとどまらない。
人もその対象になる。
だからこそ、そちらに被害が及ばぬよう対処が必要だった。
そして、トモル自身である。
対処するためには、相応の人間をつれていく事になる。
しかし、女房以外の女を相手にするというのはどうかというところ。
まさか前線につれていくわけにもいかない。
「それなら、女房を連れていった方がいいでしょう」
サナエの答えがそれだった。
「戦場につれていっても問題がない人を」
「だけどなあ」
言いたいことは分かる。
だが、素直に認めるのも難題だった。
「だからって、いきなりじゃないか?」
提案はありがたいのだが。
内容については一考する必要がある。
だが、サナエはひるまない。
「大丈夫です」
絶対の自信がある。
「本人に、ナオにも既に確かめてありますから」




