332回目 旧氏族の復活 2
辺境王族がつながりを持っていた旧氏族はすぐに参集した。
彼らを離散させないよう、辺境王族がなんとか囲っていたからだ。
その為、時間はさほどかからない。
そのほとんどが使用人などをしていた。
とても元貴族とは言えないような扱いである。
だが、そうでもしなければ生活もままならない。
やむなく身をやつしていたのだ。
そんな彼らは、この復権の機会に一も二もなく従った。
トモルは、そんな彼らに人を何人かつけていく。
事務仕事が出来るものと、護衛としての冒険者などを。
人数に余裕があるわけではないが、それでも可能な限り派遣される者につけていった。
足りない分は、様々な手段で穴埋めをしていく。
領地に流入してくる様々な人々を使ってでも。
あちこちからやってくる仕官の口利き。
それを求める貴族をまずは使っていく。
一応、精神操作の魔術で本音をしゃべらせはする。
そうして素性を確かめ、密偵などではない事を確かめる。
そうしてから、代官として派遣される旧氏族につけていった。
仕事においては未経験者もいるが、そこは多少なりとも実務経験がある者をつけていく。
こういった者に素質があるかどうかは分からない。
それでもまずは人数だけをなんとか集める。
能力や技術はともかく、人間性で問題がなければよしとしなければならない。
あくまで間に合わせだ。
仕事が出来るかどうかなど考えてられない。
とにかく人を送り込んで、領地を確保せねばならない。
空白地をそのままにしておくわけにはいかないのだ。
もたもたしてると、藤園が動き出すかもしれない。
そうなる前に事をなしていく必要がある。
それに、現地からの状況報告があがるようにしておきたい。
それすらも今は為されてないのだ。
もし、何か一大事があっても、これでは対処が出来ない。
これほど危険な事は無い。
何が起こってるのか分からないというのは、最も避けるべき事態である。
ここでトモルが行なった無茶ぶりがいくらか功を奏す。
道路の通行と、警察・裁判所。
これらが各地を見回る事で、当面の統治を助ける事になる。
ろくに人材のいない現状では、こういった者がいるだけでも助けになる。
現地に入った代官である旧氏族との連絡役になってくれるのだから。
それに、何か事が起こった場合、戦力となりえる。
大きな問題には対処出来ないが、とりあえず頭数だけは揃えられる。
それすらも今はまともに機能してないのだ。
この状態を解決出来るなら、それだけでも上等である。
必要な体裁はあとから追加していけばいい。
そもそも、一時的な代理だ。
それほどおおげさな準備をする必要もない。
まずは第一弾を送り込む。
それがトモルの考えだった。
そして、事態はトモルの見込んだ通りになっていく。
代官を送ったところに、新たな領主が赴任してこない。
それを決める事が出来ない状態になっている。
こういった人事をする中央が機能してないのだ。
何せ、様々な手段で足を引っ張り合っている。
何か目的があってやってるわけではない。
トモルに精神操作された者達は、何の利益にもならない騒動を起こしている。
それによって自分が失脚しようともだ。
それがトモルの与えた指示である。
利害など考えることなく、ただひたすらに藤園の足を引っ張ること。
謀略も暗殺も全て使っていくこと。
そのせいで、決まるべき事が全然決まらない。
すぐにでもやらねばならない領主の任命が出来ない。
誰かに決まろうとすれば、それを覆すような動きが出てくる。
何か決めようとすれば、横槍がはいる。
どうにか決まって新領主を送り出せば、それが暗殺される。
それは、領主の座を巡る争いですらなかった。
傍目には、藤園内部における出世競争のようにも見えた。
自分が領主になるために、あら探しをして現職を失脚させ。
その後釜を巡って、更に醜い争いを繰り広げる。
おかげで決まるものも決まらない。
そんな、よくある権力争いだと。
だが、実態を知る者は首をかしげるしかなかった。
そうであるなら、もっとわかりやすいものだと。
目指してるもの、狙ってるもののために行動してるのだ
だから、誰が何のために動いてるのかが分かる。
しかし、今回の騒動はそんなものではない。
争うためだけに争ってる。
事の渦中にある者も、それを見ている者もそう思えてならなかった。
いったい何のためにこんな事をしてるのか?
それが全く分からない。
分からなくて当然だろう。
実際、何かを求めて争ってるのではない。
混乱させ、破綻させるための行動なのだから。
それも、トモルによる指示によって。
なんでこうなってるのかなど、分かるわけがない。
そうしてるうちに時間が経っていく。
代官として一時しのぎで派遣されていた旧氏族。
それが時間と共に実権を握っていく。
仕事のやり方もおぼえ、名実ともに代官として機能していく。
そうなると、さすがに新領主を派遣するというのも憚られるようになった。
既に統治を行ってるものがいるのだ。
それも、末端とはいえ王族の代官である。
それに異を唱えるのはさすがに難しい。
まして、領主派遣が遅れた理由が理由だ。
中央でぐだぐだの争いを繰り広げていたのが原因である。
そんな事をしてる間に、空白地を統治していたのだ。
文句をいう筋合いが、中央に居る者達にあるわけもなかった。
そんな無理を通すのが、権謀術数ではあるのだが。
さすがにすぐにどうこう出来るわけもない。
自然と辺境王族は、勢力を拡大していった。




