329回目 まずは家庭第一、その為に作戦方針をいくらか変える
夜中に家を抜け出したトモルは、転移魔術によって国内へと移動していく。
転移するさいの目印になる魔術的な目標。
それを埋め込んだ地点に出現して、そこから移動を開始する。
魔術による身体能力強化をしてから。
時速100キロを超える速度で、目的地へと向かう。
そこは、転移先の付近ではそこそこ大きな貴族の屋敷だった。
その中に侵入し、トモルは主の部屋へと向かっていく。
既に眠り付いていた主は、寝所で横になっていた。
その主の精神に魔術で介入していく。
「命令を与える」
精神を操作した状態で主に語りかける。
操作を受けていた主は、目を覚ましてトモルを向く。
「分かりました」
その声は平坦で感情が無い。
「これから、藤園への攻撃を開始しろ。
謀略でも武力でも何でもいい。
藤園の勢力を削れ」
「分かりました」
「藤園に連なってる者は全て対象だ」
「分かりました」
「お前の配下にいる貴族も全て使え。
それが藤園に連なってる者ならば全部」
「分かりました」
トモルの指示は続く。
この貴族は藤園に連なる者。
それに向けて藤園を攻撃するよう指示を出す。
また、配下にいる藤園に連なってる貴族も動かせと。
否応なしに騒動が起こるだろう。
「それと、藤園の情報を持ってこい。
お前が知る全てを。
それを柊のところに全て渡せ」
「分かりました」
「指示は以上だ。
俺の事は決して漏らすなよ」
「分かりました」
これで作業は終了である。
同じ事を様々な所で行なっていく。
藤園に連なるそれなりの地位の者達を対象に。
さすがに一晩で全てをまわりきることは出来ない。
それでも、それなりの規模に術を施す事は出来た。
あとは効果が出るのを待つだけだ。
同じ事を何日かかけて国内いたるところに施していく。
全て藤園関係者だ。
藤園の一族の者だけでなく、その関係者なども含んでいる。
藤園に取り入ってる者達も、全て藤園の一族扱いしていく。
敵である事にかわりはないのだから。
それら全てが互いに攻撃し合うようにしていく。
もちろん、それで問題が解決するとは思わない。
だが、時間稼ぎくらいは出来るはずである。
それで十分だった。
藤園が壊滅してくれればその方がありがたい。
だが、そうする為には、かなりの準備が必要になる。
そんな事をしてる余裕は無い。
トモル一人で巡れる場所には限りがある。
敵の動きをある程度止められればそれで良かった。
出来るなら、自分達は何一つ出費しないで。
だから藤園関係者同士で争ってもらう事にした。
これならトモルが動く必要は無い。
内部分裂をして勝手に自滅していってくれる。
また、内部の動きも伝わってくる。
施した精神操作で内部情報を持ってくるようにも指示している。
後日、それが手に入るだろう。
それにより、敵の動きが分かれば申し分ない。
「がんばってくれよ」
作業を進めながら、精神操作した者達の健闘を願う。
彼らがどうなろうと知った事ではないが、成果は出してもらいたい。
少しでもトモルが有利になるように。
「俺の子供が元気に生まれて育ってくれるまで」
とりあえず数年ほどは、頑張ってもらいたかった。
そうした措置をはじめて一ヶ月。
成果は少しずつ出てきていた。
トモルの手元には、藤園の内部情報が届いている。
また、行動の予定や結果報告も伝わってきている。
それらによれば、藤園への攻撃は少しずつ進んでいるとの事。
足の引っ張り合いによる失脚。
決議を妨害して行動の遅延をはかる。
デタラメな行動をおこして、浪費を強いる。
更には暗殺なども。
ありとあらゆる行動が起こっていた。
「いいねえ」
ありがたい事である。
おかげでトモルの方にやってくる密偵や暗殺者が減った。
無くなったわけではないが、以前よりはるかに減った。
それだけでも十分だった。
ついでに、藤園のおこなっていた様々な活動。
密売買に横領、横流し。
人身売買も含めた様々な所業。
それらも掴めてきている。
それらは複製をとってから王族にも渡している。
王族にそれらの対応や対処をさせるために。
すぐには出来ないが、機会がきたらすぐに行動出来るようにさせていく。
そうした準備をして、生まれてくる子を迎える準備を進めていく。
藤園への対策や対応は勝手に進むようになった。
そちらに振り分けていた労力を、領内と子供につぎ込む事が出来る。
「がんばるぞ────!」
決意をあらたに考えていく。
「とりあえず育児用の増改築と。
それと保育用の人員と。
あと、おむつとかの購入か。
それと……なんだ?」
目下、トモルにとって重要な事業であるそれらを片付けていく。
その為に様々な知識も手に入れていく。
貯まっていて何に使おうか考えていた振り分け可能技能点数を存分に使って。
おかげで、育児関係の知識や技術はかなり成長した。
それをもってしても、初めて生まれてくる我が子を迎えるには足りない。
何せ経験がないから、何がどれくらい必要なのか見当がつかない。
「ベビーベッドに、ガラガラに。
あと、赤ん坊用のオモチャもか……?
産着は在庫をたんまり用意するとして。
そうなると生地の生産計画から練らないと……」
真剣かつ壮大に事を進めていく。
それこそ全知全能をもって。
それはそれで、能力の無駄遣いではあるのかもしれないが。
そんな事を気にしたり省みるような事を、トモルがするわけもなかった。




