327回目 足止めをせざるえない慶事
「お帰りなさい」
戻ったトモルをサナエが迎える。
サエもその側についている。
それだけでなく、護衛のナオと、神女のケイも。
トモル周辺の女が勢揃いだった。
「どうしたの?」
珍しいというわけではない。
だが、滅多に無い事でもある。
通常、帰宅したトモルを迎えるのはサエだけだからだ。
サナエは第一夫人として、奥方として家の奥で待ってる事が多い。
なので、メイドも兼ねてるサエが玄関で出迎える事がほとんどだった。
サナエも貴族という体面がなければ、サエのように出迎えたいと言ってはいるのだが。
一応、貴族らしい建前は保っておこうという事で、こうなっている。
ナオはそんなサナエの側に控える事が多い。
ケイはもう少し奔放で、家の中の居室と自由に動き回れる所に屯している。
そんな女衆が一堂に集まっている。
何かあったのかと思った。
「実はですね、お伝えしなくてはならない事が」
嬉しそうに照れた表情でサナエが伝えてくる。
「何があった?」
悪いことではない。
それはなんとなく分かった。
だが、何があったのかは予想が出来ない。
サナエと周りの女達は、そんなトモルの前で、顔を見合わせていく。
笑みを浮かべながら。
「実はですね」
含み笑いをする女達。
そんな三人に後押しをされるようにサナエが口を開く。
「出来たんです」
「…………なにが?」
間抜けな声でそう尋ねる。
実際、何が出来たのか分からなかった。
良いことではあるようなのだが。
それがなんであるのかが分からない。
そんなトモルにサナエは答えを伝える。
「────赤ちゃんが」
言葉がトモルの耳をつたって脳を直撃する。
そのまま硬直。
意味を理解するまで時間がかかった。
更に。
「あの、私も」
サエも続いていく。
なんと、同時の懐妊であった。
その事実をようやく理解したトモル。
即座に探知魔術を使って、二人の体を確認していく。
おなかを重点的に。
魔術はそこにある生命を確かに感知した。
また、それが確かにトモルの子である事も検出する。
疑いたくはないが、他の男の種ではない。
間違いなくトモルの子供だった。
「…………よっしゃあああああああああ!」
大声で歓声をあげる。
「やった、やった、やった!
でかした!」
叫びながら二人を抱きしめる。
力をこめすぎないように気をつけながら。
「そっか、ついに出来たか!
俺の子供が!」
喜ぶトモル。
同じように喜ぶサナエとサエ。
それを見て微笑むナオとケイ。
する事はしていたし、いずれそうなるだろうとは思っていた。
だが、その瞬間がやってくると、感動は格別だ。
自分が親になる、子供が生まれてくるという実感はまだない。
だが、そうなる日がいずれやってくるのは確かだ。
「あと十月十日か」
よく言われる妊娠期間である。
太陰暦による数え方なので、およそ290日になる。
太陽暦だと、9ヶ月と20日だろうか。
「それまでに色々揃えておかないと」
とりあえず、子供部屋や育児に必要な人員。
出産までの体調管理で医者なども必要になるだろう。
「早速手配を──」
浮かれてそれらをすぐに呼び集めようとする。
必要な建物を建築するための大工も。
そんなトモルを、
「おちつきなさい」
ケイがぴしゃりと額を軽く叩いて止める。
「今から全部やるつもり?」
まだ陽は残ってるが、これから暗くなる頃合いだ。
何をするにしても、もう遅い。
「明日まで待ちなさい」
もっともなケイの言葉に、トモルは世にも情けない顔をしていった。
この話を書いてて感じたり思ったりした事
BOOTHにそんなものをまとめたものを置いている
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