315回目 借金問題の解決、主に貸し出す方の救済 3
そうしてトモルの領内に貸金業者が流れこんでくる。
これらが領内の発展に大きく寄与する事になる。
借金は可能な限り避けた方がいい。
これはトモルの持論である。
同時に、世の中の基本であり常識だろう。
金に限らず、貸し借りは出来るだけない方がよい。
だが、そうした手段も時には必要になる。
大きな事業を起こすとき。
当面の資金が必要なとき。
そういった時に、金を瞬時に融通する手段があるのは便利だ。
トモルの領内にも、そうした資金が必要な商人はいる。
今少し資金を増やして、事業を拡大したい。
当面の資金繰りの為に金がほしい。
そういう状況のものはいくらでもいる。
そういった者達にとって、流れてきた貸金業者は渡りに船だった。
事業拡大を考えてる者達にとって、必要な資金を調達する手段として。
貸金業者にしても、そうした者達が多いのは助かる。
商売を軌道に乗せるために。
おかげでトモルの領内の発展は一気に加速していく。
切り開かれていくモンスター領域。
発展の可能性を秘めたそれが目の前にあるのだ。
商売の需要はいくらでもある。
だが、なかなかそこに乗り出せずにいた。
資金が無かったから。
それがやってきたのだ。
この機会を逃すわけにはいかない。
やってきた貸金業者に商人達は殺到した。
「それはいいんだけど」
その様を見て、トモルは一応釘をさしていく。
「返せる範囲で借りろ。
返せる奴に貸せ。
これだけは守れ」
当たり前の事である。
だが、それを忘れてるかもしれない。
だからはっきりと言っておく。
「俺は助けないからな」
一番大事な事だ。
破産したとしても、トモルは一切手を出さない。
貴族から助けたように貸金業者を助けない。
借金で首が回らなくなっても、借りた者を助けない。
それをはっきりさせた。
「貴族から助けたのは、貴族があまりにも不当で非道だったからだ。
お前らがこれからやる商売の方は、絶対に助けないからな」
それは正当な取引である。
契約である。
ならば、それを助ける道理はトモルにはない。
そこは商人も分かってる。
彼らとてそこまで甘えるつもりはない。
「もちろんです」
釘を刺すトモルにしっかりとこたえる。
「返せない者には一銭たりとて貸しません」
それは金貸しの矜持だ。
「それが分かってるなら良い」
トモルもそれ以上は言わない。
分かってるならことさら言う必要もない。
話はそれで終わりだ。
だが、トモルと貸金業者はこれで終わったとしても。
終わらない連中もいる。
折角借金が(トモルによって)消えたというのに、一銭も借りれない。
そうなった貴族は多い。
そのほとんどはトモルが借金を引き受けた者達だった。
その中でも比較的まともな連中だった。
少なくとも藤園関係への献金に奔走していた連中ではない。
だが、そういった者達であっても、返済が滞ってる者達はいる。
それらへの貸し出しを、貸金業者達は全員断った。
貴族は腹を立てるが、誰も一銭足りとて貸しはしない。
事情や理由もなく支払いを滞らせていた者達が相手だからだ。
彼らとしては、返済が期待できないものに貸す理由は無い。
そんな連中はこぞって泣きついた。
王族に。
貴族連中は、トモルが関係をもった王族に出向いて訴えた。
「借金はとりあえず無くなった。
それなのに借りれないとはどういう事か」
それが彼らの言い分である。
ずいぶんとふざけた話だ。
その返済は自力で為したものではない。
全てトモルが肩代わりしたものだ。
なのに、借金がなくなったからと新たに借りに来る。
馬鹿げた戯言としか言い様がない。
まともに返済もしない者をどうして貸金業者が相手するのか?
そういった考えがそもそもない。
また、トモルが助けたのは、困窮にあえぐ貸金業者だ。
貸したものが返ってこず、泣き寝入りを余儀なくされていた者達だ。
それらを助けるために、借金を肩代わりしたのだ。
貴族を助けるためでは、断じてない。
だが、王族としてはそれを放置するわけにもいかない。
とりあえず仲裁としてトモルを呼んで話していく。
「それはさすがにどうなのか。
彼らの言い分も聞いてやってくれ」
これに対してトモルははっきりと言った。
「馬鹿なことを言ってんじゃねえ」
王族は目をむいて驚いた。




