312回目 唯一絶対の宗教なんぞ存在しない、代わりはいくらでも作れる
今のところ、順風満帆である。
小さな問題はあるが、統治が崩壊するようなものはない。
モンスターの脅威はあるし、医療の面での問題もある。
治安でも問題が発生してる場所もある。
それでも、そういったものの発生率や規模は、他の多くの地域の標準よりは少ない。
一応は許容範囲と言って良いだろう。
先々の事は分からないが、概ね上手くいっている。
そのような平穏や平和をもとに、新たに作った場所で催しが行われていく。
前世の記憶から作り出した信仰と、その中心となる神社。
その教義などの教育がある程度終わってきた。
その成果を試すために、トモルはそれを実施させる。
祭りである。
人間、憂さ晴らしが必要である。
その為にも、何も考えずに楽しめる瞬間がなければいけない。
娯楽というのは、その為に必要不可欠なものだ。
その為にも祭りのような行事が求められる。
もとより、それだけが理由で神社を作ってるわけではない。
教会に代わる宗教として用意したものだ。
祭りはそれがどんなものかを示す為のものでもある。
傍目にわかりやすい行事として。
やることはさほど変わらない。
祭礼をして、あとはドンチャン騒ぎをすればよい。
ついでに出店もあればなおよろしい。
ただ、違いも当然ある。
その代表が、何を祭るのかだろう。
先祖と自然。
神社で祭るのはこれである。
神などというわけのわからないものではない。
そんなものに頭を垂れる宗教なんぞ必要ない。
自分にまで至る先祖達。
自分を取り巻く自然。
それらへの感謝。
必要なのはそれだけだ。
それだけ大切にしておけば、とりあえずは良い。
そこに御利益を求めるような気持ちはいらない。
そういったものがもたらしてくれたものに頭を下げれば良い。
今もこうして無事に生きてると報告するだけでよい。
信仰のあるべき姿はそんなものだとトモルは思っている。
その祭りを大々的にやる。
その為に、神主をはじめとする神職を育ててきた。
神女も用意してきた。
とはいえ、それほど盛大に仰々しくやるつもりはない。
派手な儀式は手間がかかって大変だ。
そんなものに時間を割いてもいられない。
厳かにおこないたいが、なるたけ簡単に済ませもしたい。
だからトモルは、祭礼を簡単なものにした。
時間にして10分。
それがトモルの示した最大時間だった。
「本当に簡単だねえ」
ケラケラと笑いながらケイが言う。
「こんな簡単な祭礼、初めて見たよ」
「そりゃそうだ、これが初めてなんだから」
少なくともこの世界においては史上初である。
また、前世の日本でも、ここまで簡単にした儀式も珍しいだろう。
「でも、これがいいんだよ」
自信をもってトモルは言う。
「おぼえやすくて助かったのは確かだけど」
ケイも頷く。
「でも、本当にこんなんでいいの?
もうちょっとゴテゴテと追加した方がいいんじゃ……」
「これがいいんだ」
トモルは頑として譲らなかった。
「鬱陶しい儀式は教会に任せておけばいい。
俺たちは簡単に、大切な事をやればいい」
それがトモルの信念だった。
時間と手間は、必要なところにかければいい。
装飾に費やすほど無駄なものはない。
「必要にして最低限。
それでいて十分。
それが、この形だ」
そう信じて疑わない。
だからこれ以上を省いた。
最大10分としたのもその為だ
これも、10分全部を使えというわけではない。
目安としてこれを最大としただけだ。
短いならその方が良いと伝えてある。
「おかげで、5分で全部が終わる。
神主と神女の入退場を入れても10分にもならん」
その短さがトモルの自慢だった。
「とはいえ、一応は大切な儀式だ。
変にとちったりするなよ」
「はいはい。
がんばりますよ、そりゃあもう」
「なら頑張ってくれ。
その後は、人の目がないところでドンチャン騒ぎしてくれればいいから」
さすがにそういったところは厳しくしておいた。
神女が酒飲んで暴れるのはいただけない。
するなとは言わないが、人目につかないようにしておきたかった。
「分かってる、分かってる」
気安くトモルの肩をぽんぽん叩きながら応える。
「そういうところは抜かりないケイちゃんですよ。
猫のかぶり方くらいは心得てますって」
「おう、お前のそういうところは信じてる」
外ッ面の良さをトモルはガキの頃から知っている。
「お前のそういう才能を買って、俺は神女という表舞台に立つ役目を押しつけたんだ」
「…………褒められてると受け取っておくよ」
わざとらしいくらい無表情な笑顔でケイはこたえた。
そんなこんなで祭礼は盛大に行われた。
本来の目的である、神事は10分もかからず終えて。
それよりも縁日などで賑わっていった。
来訪した者達も、その賑わいを楽しんでいった。
こうした祭礼(という名のドンチャン騒ぎ)が教会からの改宗者を増やす原動力になっていった。




