305回目 たとえ末端でもその地位は大きく高いのだから、利用する価値はある 6
とはいえ、呼び出されたからといって出向くのも面倒である。
それが功績への表彰というものであってもだ。
礼儀作法はある程度身につけてるが、儀式は面倒でうっとうしい。
なるべくなら関わりたくなかった。
しかしである。
(さすがにそうも言ってられねえか)
これから先の事も考えると、そうも言ってられない。
貴族共のちょっかいを牽制するためにも、こういった所で箔をつけねばならない。
(任命もするって言ってるし)
そういう内示も受けている。
ならば行かないわけにはいかなかった。
この任命、領主などが自分の権限の範囲で誰かに仕事を任せるという事を指す。
認可や許可、免許と言ったほうがわかりやすいだろうか。
それを自分の権限の及ぶ範囲、自分の領地の中などでだけ認めるというものである。
当然ながら、領主の治める領地の中でしか効果がない。
それでも、領地の中でならば行動が公に認められるくらいに信用があるという事にもなる。
実際に与えられる権限よりも、そういった権威的な方が重要とみられる事もあるものだ。
その効力は感謝状などの褒賞よりも大きい事もある。
今回、それが王族より与えられる。
当然ながら貴族のものよりも権威は高い。
それが辺境の小さな王族領を治める者からのものであってもだ。
それは、王族が相手を信用するという事なのだから。
実際に与えられる権限などは、正直なところ小さなものだ。
何せ、トモルに与えるのは辺境の小さな領地を治めるだけの者である。
単純に作業の許可などはその領域内でしかこなせない。
いくら許可を得たとしても、仕事が出来る範囲は狭い。
だが、王族から信用されてるというのは大きな影響力を持つ。
その信用だけで、他の貴族領での作業も可能になる事もある。
王族から信用されてるのだから大丈夫だろう、という事になる。
また、王族からの信がある者を蔑ろにするわけにもいかない。
そんなわけで、王族からなんらかの任命をされるというのは、それだけで活動範囲がひろがる事になる。
そして、これがトモルにとって一番大事になるのだが。
王族に任命されるという事は、王族が保証や保護を与えてるという事にもなる。
王族が仕事を任すという形でその権威にあずかってる事になる。
そんな者に下手に手を出すわけにもいかなくなる。
表彰とは比べものにならないほどの効果が期待できる。
だからこそ、無視するわけにはいかなかった。
貴族からの鬱陶しいちょっかいが減るならその方がいい。
それも効果がより大きく期待出来るならその方がありがたい。
義務や義理も増えるが、それも面倒を避ける為の手段であるならばある程度は我慢できる。
将来、これが邪魔になるかもしれないが、今の所は有効なものだ。
ならば、もらいに出向くしかない。
それでも面倒であるのは変わらない。
(どうにかなんねえかな)
そう思いため息を吐く。
もしどうにかするとしたら、トモル自身がよりいっそう強くなる事だろう。
全てを撃退できるだけの力で相手をねじ伏せる。
それしかない。
それは目指してるところであるが、今のままではまだ足りない。
せめてあと少しレベルを上げておきたかった。
その為の時間が欲しい。
それはトモル個人の力だけではない。
開拓してるモンスターの領域を整備。
資源の確保や技術の向上、研究の推進。
これらによって国力の増強もはからねばならない。
こちらはトモルの能力向上以上に手間も時間もかかる。
となれば、現段階で最も手っ取り早く手に入れる事が出来る牽制手段は確保せねばならない。
それに伴う面倒を抱える事になっても。
トモルが力をつけるまでの我慢である。
(そうなりゃ切り捨ててもいいんだし)
あくどいかもしれないが、そういう事も考えている。
何せ相手は王族。
そこらの貴族よりも厄介な存在である。
それくらいの気概がなければ、飲み込まれてしまうだろう。
(面倒だよな)
統治者や支配者というものを相手にするのは。
単純に力だけで粉砕できるモンスターの方が、まだ単純で相手をしやすいと思えてしまう。
それでもやむなく王族のところへと向かっていく。
気は進まなかったが。




