302回目 たとえ末端でもその地位は大きく高いのだから、利用する価値はある 3
そんな所にトモルは、人を集めた。
中央では芽が出なかった凡庸な者達を。
学者や文化人などを中心にして。
それらは己の専らとする分野ではそれなりに造詣が深い者達だ。
しかし、国の中央などでは同程度の人間はごまんといる。
そんな中では凡庸という範疇にまとめられてしまうのも無理は無い。
そのため、その道で名をなす事もあたわず、自分を律するための諦めを強いられている。
そこに多少の不満が含まれてるのは致し方が無いだろう。
そういった者達をトモルは集めていった。
中央などで居場所がなくても、田舎でならそれなりの活躍が出来る。
言葉は悪いが、程度の低いところであれば才人賢者となる。
彼らの程度が決して高いわけではないのは確かだが、そんな彼らよりも遙かに下回るのが辺境という地域である。
そして、そんな辺境だから彼らの活躍の場もあるというものだった。
他に楽しみのない場所である。
そんな所にいる王族にとっては、平々凡々な有識者や文化人でも賓客に値する。
それは周囲の人間にとっても同じだ。
近隣の貴族達からすれば、滅多に会えない中央の人間である。
それも学識と才覚を備えた人間である。
中央の一流どころでくすぶっていたにしても、そこでもまれてきた者達である。
培った能力は田舎の貴族など足下にも及ばない。
彼らの識見や風雅な部分に教えを請う者も出てくる。
王族領はそういった者達の居場所として機能し始めていった。
それは談話のためであり、時に指南のためでもある。
時に相談事を持ち込む者も出てくる。
ひっくるめて、教養というものを求めて人が集まってきた。
その中心として王族領の館は人の賑わいが生まれていった。
そうなると警備の必要性も出てくる。
道の整備も進めねばならない。
やってくる貴族を逗留するための館もしつらえねばならない。
そういった手間をトモルがまずは引き受けていった。
警備には武家の者達をあてていった。
身元の確認はトモルがやっていき、問題のないものを推挙していく。
当然、トモルに敵対する勢力の者は外されていく。
むしろ、そうした連中のせいで不遇を託っていた者達を中心にあてていった。
これは貴族らが逗留する設備などの警備も同様である。
それらを担当する者達はトモルにとって都合のよい者達で固められていく。
わざわざ敵対する連中をあてこむほどトモルは気前が良いわけではない。
また、愚かというわけでもない。
そしてそういった施設などの建造はトモルの負担で行われていく。
これは善意からというわけではなく、当然ながらそれなりの打算や目的があっての事だ。
まずは王族などへの媚び。
それを恩と感じる事はなくても、奉公として受け取ってもらえるよう努力した。
御恩を受け取る為に。
また、こちらの方がより重要であるが。
トモルの方で建築建造する事で、やってくる貴族に都合のよい設備を作らせないためである。
隠し部屋などを作って良からぬ事に使われてはかなわない。
そういった事が出来ないように、建物などはトモル側の都合で作られていった。
もちろん、そういった施設はトモルにとって都合のよい細工が色々仕掛けられている。
それも今後の行動をやりやすくするためだ。
それでもトモルのもたらした功績は大きい。
結局のところ自分のところからの持ち出しで必要なものを用意していったのだから。
それも、必要最低限だけではない。
あれば便利な細々としたものも可能な限り用意していった。
そこまでするならば、これを無造作に扱うわけにもいかなくなる。




