182回目 とりあえず一発やってみて様子を見る
そして迎えた卒業式。
例年通りに進行していく式
学校長の挨拶から来賓代表の挨拶。
在校生からの送辞。
それらを経て、卒業生の答辞となっていく。
壇上に上がってそれを口にするのは藤園カオリ。
家の格からこういった式では生徒代表をつとめる事が多い。
今回の卒業式でも、卒業生代表という立場で言葉を述べていく。
それはありふれた事であり、何一つおかしなところなどない事であった。
参加してるあらゆる者達も、疑問を抱く事無く進行を見守っていた。
「そして、この学校において私は、女子を用いて体を売る組織を営んでいました」
この発言が飛び出すまでは。
「実家の藤園家によって成立してるこの売春組織を運営し、私は学校を支配しておりました」
滑らかに言葉を発していくカオリを、最初は誰もが呆然と見つめていた。
いったい何を言ってるのだろうという顔で。
だが、カオリの言葉が進むごとに、列席していた全ての者達が驚愕していく。
ある者は恐怖を、ある者は純然たる驚きを。
すぐにカオリを止めるよう動き出す者もいる。
そうした動きに学校側の者達は、
「お静かに、お静かに!」
と制止をしていく。
少なくともカオリを止めるような事はしていない。
止めようとする者達を押しとどめていく。
その間にカオリは、魔術機具によって拡大された声で、隠されてきた事実を口にしていく。
「我が藤園家はこうして各家の女子を、有力貴族の所に送り込み続けました」
全てが白日のもとにさらされていく。
居合わせた生徒や両親などがその事実に蒼白になっていく。
カオリと共に運営する側で参加していた者。
声をかけられ、協力という名の脅迫を受けていた者。
そういった噂を聞いてはいたが、確証が持てなかった者。
本当に何も知らずにただただ驚く者。
様々な反応を見せる者達の前で、カオリは自らの口で自らの行いを述べていく。
「そして私自身も、自らの体を使って様々な方々に楽しみを提供してまいりました」
そこからは関係した貴族の名をあげていく。
いずれも有力な家で、なおかつ藤園に連なってる者達ばかりだ。
「そして、そんな私たちを支えてくれたのが、我が実家の藤園家でございます」
そこからは、藤園に関わる者達でも主要な者達の名があがっていった。
更に、
「捜査当局にも我が家の息のかかった方々がおり、その皆様のおかげでお務めを大きく助けてもらいました」
本来ならこうした事を取り締まる者達も、様々な利益を得るかわりにお目こぼしをしていた。
むしろ、積極的にカオリと藤園の家の仕事を手伝っていたと言える。
取り締まりを含めて何もしないのは、この場合最大の利益供与である。
そうして全てが……とはさすがにいかないが、概要が伝わるごとに会場は騒然となっていく。
集まっていた来賓は蒼白になり、生徒の親は呆然としている。
カオリの言うお務めの内容をまだよく理解出来ない学生達は困惑しているものがほとんどだ。
それでも、カオリが何かとんでもない事をしていたのは、そしてとんでもない事をさせていたのは感じ取っていた。
「すぐに音響機具を止めろ!」
誰かがそんな指示を出す。
拡声器によって拡大されるカオリの声によって事実が公表されるのを恐れた者による。
だが、それすらも出来ずにいた。
音響機具などはトモルの息のかかった者達によって操作されている。
その周囲には、学校関係者として採用させた冒険者達が護衛をしている。
レベルが上がり、必要充分な能力を持ってる彼等を突破できる者はいない。
また、音響機具によって声が届けられるのは学校内だけに限った事ではない。




