181回目 素朴な疑問とろくでもない考え
「でも、これってどれだけ意味があるんですか」
「分からない」
寄宿舎の自室。
タカフミの疑問にトモルは素直に答えた。
「意味があるのか効果があるのかも分からない」
「それって、やらない方がいいんじゃ……」
「でも、やらなきゃ、何がどれくらい影響するのかも分からない」
「……だからやると?」
「そういう事」
「行き当たりばったりすぎないですか?」
「まったくだ」
否定は出来ない。
「もしかしたらやらない方がいいかもしれない。
でも、やらなかったら何も分からないままだ」
「そりゃあそうでしょうけど」
どれだけの効果があるのかを予想する事は出来ても、効果の確認はやってみる事でしか得られない。
それはタカフミにも理解出来てはいた。
「でも、危険が大きい気がするんですが」
「それでもだよ」
トモルはタカフミの危惧を理解しつつも考えを貫いていく。
「どのみち危険な事をやるんだから。
失敗を怖がってたら何も出来ない」
「はあ、まあ、そうでしょうけど」
理解は出来るが納得はしたくないといった風情のタカフミ。
その気持ちはトモルにも分かる。
危険と分かっているのに、わざわざ実行する必要は無いのは当然だ。
だが、それでもトモルはそう言って強行するつもりだった。
「あいつに一泡吹かせてやるんだ。
それくらいの危険はしょうがない」
そう言ってトモルは、藤園カオリへの報復を進めていった。
藤園カオリの卒業。
この機会は今年一回しかない。
その貴重な可能性をあえて見逃す事など出来なかった。
それなりの地位のある家の、それなりのお嬢様。
それが絡んでた事件や組織。
これらを利用出来る機会は今回くらいしかない。
だから、この時期にあえて行動を起こす。
他の女子生徒を犠牲にしていた連中を引きずり込むために。
やらかした事への責任を、多少なりともとらせるために。
そう考える事が、様々な可能性を狭めてる事になるのかもしれない。
短絡的に目先の事だけ考え、もっと大きな、より有益な何かを捨てる事になるかもしれない。
しかし、いつになるかも分からない可能性に全てを賭けるのも危険ではある。
また、何もしないでいる事で危険を放置する事になるかもしれない。
今後、カオリなどが関わってた組織や集団などが、より勢力を増すことに繋がるかもしれない。
だったら、相手の弱みをもとに何かしら行動をしていくしかないのではとも考えられた。
弱みをネタに交渉を、というのも考えた。
しかし、これは現状では悪手でしかない。
交渉というのは互いの利害をすり合わせるものでなどありはしない。
背景にしてる力をもとにして、相手に言う事を聞かせるものだ。
会話や話し合いなどという無意味な理想論などでありはしない。
もし、カオリに絡む弱みをもとに交渉などしようものなら、叩き潰されるだけである。
敵からすれば、そんな事をしてくる厄介者を生かしておくほうが都合が悪い。
面倒を起こしたものを処分した方が手っ取り早い。
治安機関などを黙らせるだけの権力があるなら特に。
強請りや脅迫をしてきたものなど、闇に葬り去ったほうが手っ取り早い。
それにだ。
カオリとその周辺にとっては大きな痛手になるかもしれない。
だが、それらを含む相手の勢力全体からすれば、これも小さな出来事でしかないかもしれない。
カオリとその家など、無くなっても構わないという程に。
それならば、弱みとなってしまったカオリを消してしまったほうが早い。
その周辺を含め、関係者を切り捨てた方が対処が楽だ。
敵勢力そのものは延命を図る事が出来る。
そして、弱みが無くなったところで、トモル達を攻撃すれば良い。
強者としては、そういう行動に出た方がよっぽど利益がある。
なので、交渉など出来る訳がない。
そんな事をすれば、相手に自分の姿をさらす事になる。
攻撃目標をはっきりさせてしまう。
そうして攻撃目標を見定めたら、敵は容赦なく動くだろう。
交渉をしようとすれば、それだけで相手が有利になる。
それでいてトモルが得るものは何一つない。
損失だけを出して終了する。
そんな事するわけにはいかなかった。
現状では、何もしないで見送るか。
それとも、何かしら攻撃をしかけて傷を負わせるか。
この二つに一つである。
そして、様々な利益や損失を考えた結果、トモルは打って出る事にした。
それで相手の動きを見る。
動きから相手の勢力を見定める。
どこが関与してるのかをはっきりさせ、次の攻撃目標をはっきりさせる。
もちろん相手も動き出すだろうし、トモル側に目を向けてくる事にもなるだろう。
少なくとも、誰が何をしたのかの調査くらいはするはずだ。
結局は、目を付けられて攻撃される事にもなるだろう。
だが、一方的にやられるだけではない。
トモルが得るものだって出てくる。
そう考えてトモルは、分の悪い賭けに出る事にした。
本当に危なかったら、自分一人で逃げればいいだけの話でもある。
今まで作り上げてきたものを捨てて、再び自分一人で頑張ればいい。
そう考えてもいた。
幸いにも、レベルも上がり、かなりの事が出来るようにもなっている。
一人で生きていくくらいならどうとでもなるだろうと思っていた。
切り捨てる事になる者達からすればとんでもない事である。
だが、トモルはそれくらい冷めた考えで事を進めていた。
でなければ、こんな無茶な事をしでかす事など出来やしない。




