150回目 この状況とこの手札で出来る事はなんだろう 4
次の日、トモルは再び手下の所へと出向いていった。
さすがに一日で全てが決まったわけではないが、何人かはその辺境とやらに出向くつもりになっていた。
それを聞いてトモルは、
「なら、さっさと行こう」
と提案した。
善は急げである。
このままこの場に留まっても稼ぐ事が出来ないという者は多い。
それらを即座に新天地に運ぶ必要があった。
「馬車を用意させてくれ。
馬に強化魔術をかけて一気に移動する」
当面の寝場所としてテントを調達し、何日分かの食料も買い込む。
それだけで足りるかどうかは分からないが、あとは頑張ってもらうしかない。
それらを、それなりの大きさの馬車に載せ、更に移動希望者を別の馬車に乗せていく。
総勢20人ほどが最初の移動希望者だ。
それらを見てから、トモルは馬に強化魔術をかけていく。
これで馬の運搬量と移動速度は大幅に強化された。
「じゃあ、行くぞ」
同じく馬車に乗り込んだトモルが、出発を促す。
数台の馬車がトモルの実家の方へと向かって進み出した。
かなり猛烈な速さで。
魔術で強化された馬の身体能力は、荷物や人間が乗り込んだ馬車をものともせずに引っ張っていく。
その移動速度の速さに、トモルも少々驚いた。
乗り込んでいた者達も、
「うわ!」
「きゃあ!」
「おほ!」
と悲鳴をあげていく。
それもそうだろう。
さほど均してもいない道だ。
そこをサスペンションのない馬車が猛烈な速度で進めばどうなるか。
地面の凹凸がそのまま襲ってきて、乗り込んだ者達を跳ね上げるに決まってる。
移動時間短縮のためとはいえ、乗り込んだ者達は地獄を見る事になる。
(でも、がんばってくれ)
胸の中でトモルは声援を送った。
自身も地面から伝わる衝撃に耐えながら。
(絶対にサスペンションを作ろう)
前世の自動車に装着されていた衝撃緩衝機具を思いだす。
トモルはそれの製作を決意した。
最悪の乗り心地であったが、おかげで馬車は昼になる遙か前にトモルの実家へと到着する。
しかし、乗り込んでいた者達の消耗は激しい。
やむなくトモルは、治療や回復の魔術で彼等の状態を元に戻していく。
冒険者だけではない、御者も回復させていく。
彼等も跳ね上がる馬車を制御するために必死だったのだ。
そんな彼等に、「ちょっと待っててくれ」と告げて冒険者を引率していく。
「みんなに出向いてもらいたいのはこっちだ」
そう言って作り上げた街道の避難所(予定)につれていった。
「ここでモンスターを倒していってくれ。
周りにはいくらでもいるから、稼ぐ事は出来るはずだ」
実際、移動してる間にもモンスターは襲ってきた。
それらを撃退しながらやってきた彼等は、彼等が拠点とする場所を見て呆然とした。
確かにそこは盛り上がった土が防壁のようになっていた。
モンスターの突進を妨げる事は出来るだろう。
だが、周りのモンスターの数を考えると、正直心もとない。
何せモンスターの領域だ。
そんな中に残されるようなものだ。
稼げはするだろうが、気を抜く事が出来ない。
「20人もいればどうになるだろうから。
まあ、頑張って。
俺も後続を連れてくる」
「え、あ、あの」
「日が暮れそうになったら村の方に戻ってくれ。
そこで寝泊まりしてほしい」
「いや、だから」
「後続を連れてくるから、そいつらと後で合流したら上手くやってほしい」
「そうじゃなくて」
「何か問題があれば後で聞く。
でも、とりあえずはここで頑張ってくれ」
「…………」
「じゃあ、そういうわけで」
それだけ言うとトモルは、冒険者達をその場に残して去っていった。
この後、もう一度馬車で戻って、更に冒険者を連れてくる予定なのだ。
ここに留まるわけにはいかなかった。
だが、残された冒険者達はたまったものではない。
「どうすんだよ」
ここから戻るにしても結構大変だ。
それに、道の中でたたずんでるわけにもいかない。
とりあえず用意された避難所に入り迎撃態勢をとっていく。
幸いな事に、武器などはちゃんと持ってきている。
防壁もあるので、上手く頑張ればモンスターを凌ぐ事は出来るはず。
「やるしかないか」
腹をくくって冒険者達は避難所に立て籠もった。
その後、もう一往復して後続20人を連れてくる。
それらも避難所につれていき、先に到着した者達と合流させた。
総勢40人になった冒険者達は、襲いかかってくるモンスターを次々に撃退していく。
これだけの人数がいれば、次々に襲いかかってくるモンスターもさほど苦ではない。
帰りも彼等だけでどうにかなる。
問題があるとすれば、避難所がこの人数では手狭である事。
一日が終わってそこから撤退してきた冒険者達は、それをトモルに伝えた。
それを聞いたトモルは、
「じゃあ、あとで拡張する」
と言った。
それを聞いた冒険者達は「出来るのか?」
と思った。
しかし、ダンジョン攻略において凄まじい力を発揮した事を思い出す。
こいつならやるだろうと誰もが思った。
ともあれ、一日で40人も冒険者は増加した。
それを見ていた村の者達は、すぐに不安を抱いていく。
あんなにいて大丈夫なのかと。
自分達に何かしてくるんじゃないかと。
武装集団である冒険者達への危惧は一気に高まっていった。
そんな彼等が領主に訴え出るまでそう長い時間はかからなかった。




