148回目 この状況とこの手札で出来る事はなんだろう 2
子供達から話を聞き出したあと、トモルは家に帰って父にその話を持ちかけた。
食事が終わり、少しばかりの接触が持たれる瞬間。
その時を使ってトモルは切り出す。
「あの、父さん」
「どうした?」
「みんなから聞いたんだけど、冒険者達が」
「ああ、お前も聞いたのか」
さして驚くでもなく、ため息を吐いて父はトモルと向かいあった。
トモルが切り出すまでもなく、村の者達も動き出してはいた。
村の外れに居座り始めた冒険者達。
今は何の問題も起こしてないが、あれらが居座って何か悪さをしてきたらどうしようと。
もっともな懸念である。
余所者の悪さなどよくある話だ。
そうでなくても武装した集団がすぐ近くにいるのだ。
不安を抱くのも当然である。
なので、何らかの対策をしてくれないかという者が何度か訪れていた。
ありていに言えば、「追い出してくれ」と言ってるのだ。
とはいえ、領主である父もそれを受け入れるわけにもいかなかった。
冒険者がもたらしてる利益が大きかったからである。
「彼等はモンスターを倒している。
おかげで田畑への被害が減った。
それに、モンスターが減ってきてるから、新たに開墾しようという話も出てきてる」
この辺りは冒険者がもたらした良い面なのだろう。
「だから追い出すなんて事は出来ない」
「ではどうしたら良いのでしょう?」
「さあなあ。
何か良い考えがあればよいのだが」
「冒険者の人達がこっちではなく、村の外れにいてくれればいいのですが」
「全くだ。
さりとてどうしたら良いものか」
父もそこは考えあぐねてるらしい。
冒険者が変に村にちょっかいをかけないようにどうすれば良いのかを。
だが、トモルにはこれが好機に見えた。
まず、父も現状を認識してる。
何かせねばとも思ってる。
だが、手段が思いつかないからどうにもならない。
それは分かった。
という事は、手段があるなら即座に実行する可能性がある。
実現まで時間はかかっても、提案すればすぐに実行するかもしれない。
何より、父親に話をもちかけるきっかけが出来た。
これに関わる事ならば話を聞いてもらえるかもしれない。
頭の中で色々とやり方が組み立てられていく。
手持ちで何が出来て何が無理で、何をどうしたら良いのか。
それらが次々に組み上がる。
上手くいくかは分からないが、とりあえず状況を作る事は出来る。
それを前にして領主である父がどう判断をするかは分からない。
思ったような結果にはならないかもしれない。
だが、それはならそれでも構わなかった。
父がやらないなら、トモルが動けば良いだけである。
(それだと面倒が増えるけど)
最悪、学校に通ってる暇も無くなるかもしれない。
学校に行く理由や利点はほとんど無い。
さりとてこの先の事を考えると、通学しないわけにもいかない。
それはそれで面倒な事になる。
学校を卒業しておくというのは、貴族社会においては基本である。
これすら出来なかった者は落伍者として見向きもされなくなる。
それはそれで構わないが、家そのものが貴族社会で居場所を無くすかもしれない。
利用価値のあるものを自らの手で潰す事になる。
それもバカらしいので、なるべく卒業はしておきたかった。
(弟と妹の事もあるし)
先々、家の事を押しつける予定のそれらが、今後肩身の狭い思いをするのも忍びない。
特に弟には、家の仕事という面倒な事を押しつけたいところだった。
その為には、学校において柊家の者が居づらい状況を作るわけにはいかない。
下の兄弟達には、出来ればよりよい学校環境の中で生きてもらいたかった。
その為にも、完全な学校支配を達成したいところである。
(やるしかないよな……)
その為に必要な努力を思うと頭が痛くなった。




