後悔先に立たず
そして、翌日以降深々の様子を見るとおびえきっていた。
自分のせいで冠黎がひどい目にあってしまったことが冠黎の実家にばれたら、家族がどんな目にあわされるかとぐちぐち言っている。
これは別の意味で、官吏に向いていないのではないだろうか。
この性格なら別口のトラブルに巻き込まれる可能性は高い。
可能性じゃなくて、確実に。
とりあえず、今は一蓮托生だ。他の面々とも相談してしばらく様子を見たほうがいいと判断した。
冠黎は最近注意力散漫で叱られることが多いと聞いた。おそらく原因は空腹だろう。
これで懲りてほしいが、たぶん無理な気がする。
適当な家を借りるのに必要な金をためるにはまじめに働いて二年はかかる。
貯金という概念のない他の面々はもっとかかるだろう。
やれやれと頭を振る。
こういう形でかかわってくるとは思っていなかった。
同年輩の人間の集団生活は思ったよりきつい。
どちらかというと年長の人間の間を渡ってきたような人生だなあとしみじみ過去を思い出す。
近所のおばさんたちや、姉の仕事上の関係者とか。そして最近では姉の嫁ぎ先の関係者達。
そこまで考えて考えるのをやめた。
とりあえずこの職場の上司はやりやすい人なので、それは良しとすることにした。
帳簿整理の途中で妙なことに気付いた。
計算が合わない。途中までは合わないが、ある程度を過ぎるとまた帳尻が合うようになっている。
自分の勘違いかと思ったが、妙に気になるので過去にさかのぼってしらべるべきかと思案する。
「深々、ちょっと他の人を呼んでくれないか、ここがちょっとおかしい気がするんだ」
「帳尻はあっているんだろう」
深々は叫ぶように言う。
なんでそんなことを知っているんだ。というか最初から知っていたような。
「おい、深々」
いくらなんでも最近来たばかりの深々がかかわっているはずはない。
まさか、真影の血の気が一気に引いた。
冠黎と同じくここの汚職上司にもこいつ良いように使われている?
しまった、さっき保留にしないでもっと早く動いていればよかった。
そこまで考えて善後策を考える。
「深々、ちょっと落ち着こうか」
真影はそろそろと、相手を刺激しないように話をする。
「これで僕たちが疑われる可能性はないよ、だってこれは僕たちが来るずっと前に用意されたものなんだ、だから」
「だから人に知らせるって、そんなことをして逆恨みされたらどうするんだ」
深々が激高した。
「こういうことは見て見ぬふりをしろって従弟のお兄ちゃんも言っていた」
官吏にこの手の体質が蔓延していたなら、義兄の苦労もわかろうというもの。
「そんなの大丈夫だよ」
真影に限っては大丈夫なのだ、えこひいきはしないだろうが、汚職の密告ぐらいなら多分守ってもらえる確信がある。それに体質改善には積極的なはずだし。
しかしそんな真影の気持ちを当然知るはずもなく。
「僕は家族と僕を守りたいだけなんだ」
いや、僕に何かしたら確実に無事じゃすまないよ。
言いたくても言えない言葉を飲み込んで、深々をうかがう。
護身術は定期的に鍛錬を重ねている。
金武にも一応使えると言われているが。
「なんだ、もうばれたのか」
後ろで声が聞こえた。
藩冠黎がいる。
「とにかくあの方のところに連れて行こう」
助けてやるんじゃなかった。
真影は自分の行いを心から後悔した。




