内なる反抗
暑くないのかね。それが真影の最初の感想だった。
寧州は国の南端にある。だからとても暑い。
冬でも単衣の着物で過ごせると聞いていた。
そんな寧州でたっぷりとした布地を用いた着物は贅沢ではあるが、どう考えても心地よいとは言い難い代物だろう。
贅沢を誇示するためにやせ我慢をしているのだろうか。
それがその男を見た時の感想だった。
そのうえでっぷりと太っている。それが一層の暑苦しさを示しそしてその尊大な顔立ちが藩冠黎とよく似ていた。
おそらく横暴で有名だという藩一族の人間だろう。
その男は真影をまるでつまらない雑草を見る目でただ眺めていた。
「もし、どこかに訴え出ようとしても無駄だ、君程度のものが私より信頼されると思うかね」
嫌あんたがどこの誰かは知らないけどね。
送信中で突っ込んだが、真影は軽くうつむいて、黙っていた。
ここは相手にできるだけしゃべらせようと思ったのだ。
「常に、こちらだ見張っている、馬鹿なことは考えるな」
視界の隅で深々が小刻みに震えている。
本気でおびえているようだ。
「まったく、我が藩家の人間を寧州のような片田舎に追放するとは」
まったくだと藩冠黎もうなずく。
「とにかく、我々は天暁に戻るためには手段を択ばなつもりだ、君たちも役に立てばそれ相応のことはしてやろう。しかし逆らえば」
どうやら王の手で天暁から追放されたらしい。
なんで自分の幸運を喜ばないんだろう。
藩家の立ち位置はいまいちわからないが、多分王にろくでもないと目をつけられているのではないかと思われる。
だとすれば命があっただけで御の字というものだ。
たまたま漏れたにしろ、どんな形でも生きて射られるっていいことだと思うのだが、それに今更天暁に戻ったとしても先行きが明るいと思っているのはお前だけだ。
冠黎はどうやらこの親戚の男についていけば、すぐに天暁に戻れると思っているらしい。
しかし王の方針で、自分達は最低五年は地方にいることになる。
これを覆せるとは思えない。
真影はため息をつく。
馬鹿ばっかり。
彼らの言う監視がどういうことなのかわからないが、深々はじっとりと自分を見ている。
もしかしたら監視というのは暗示なのかもしれない。
強くそう言われたら何を見てもそう思い込んでしまうというのはあるものだ。
真影はそう思いつつ仕事をこなす。
幸い自分は新入りなので、込み入った不正などにかかわることはなさそうだ。
深々はただ相手の身分だけを見て相手を過大評価してしまっている。
自分のような新入りの官吏などがどうあがいても逃れることのできない蜘蛛の網にかかってしまったと。
しかし、蜘蛛の網にかかりっぱなしでも破滅は約束されている。
真影としては座して死を待つつもりはなかった。
動くきっかけを早いところ作ろう。
そう思案していた。




