あれやこれや
経理の仕事は当然ながらわずかな計算違いも許されない。
毎日検算に次ぐ検算、それも隣の相手と用紙を取り換えて。
「お前、計算が速くて正確だな」
相手は中堅どころという感じの先輩だった。
「どうもありがとうございます。計算はいつも買い物で使ってますから」
真影はそう言って笑う。
真影は暗算でそれなりに出来るのであくまで算板は念のため使うものだ。
「いやいや、大したものだ、それにここは帳簿のみだが、実際に金を取り出すこともあるから、信用のおける人間しか置けないんだよ」
金銭を扱うなら当然の処置だが。
「もっと上に行けばそれだけ大きな金を扱うことになるからな、しばらくしたら、配置換えで別部署に送られるかもしれないが、最終的にこっちに戻ってきてほしいと思う」
「向いている部署を探すためですか」
真影は割とそつなくこなしているが、深々はどこかおぼつかない。
「深々、もうすぐお昼だけど、一緒に行く?」
そう水を向けてもふいっと顔をそらされる。
大丈夫かなと思うが、昼に行くために真影は机の周りを片付け始めた。
「やっぱり、研究は必要だと思うんだよ」
漢途が重々しく言う。漢途の前にはこんがりと焼き色のついた上げ肉が鎮座している。
「その研究って?」
本日は漢途が調理の手伝いの日だ。
生粋の貴族のお坊ちゃん育ちである彼は初めて料理に興味津々である。
金武も同じものを食べているが、彼は終始無言だ。
「決まっているじゃないか、すでにできた料理を売っている店、一度行ってみるべきだと思うんだ。ここの食材は天暁とまるで違うって言っていたろう、それなら、この地で食材をどう調理しているか確認してみることも大事だろう」
なるほど、食い意地かと真影は思う。しかし、食い意地の張った人間のほうが、いざ調理を覚える際には呑み込みが早い。
「なるほど、それも道理だな、とりあえず、多少の余裕はあるから、少量ずつ分けあえる料理に限ってならそれをやるのもやぶさかではない」
真影の厳重な管理において食費は多少余裕がある。それなら将来のための投資をすることもなくはないだろう。
「じゃあ、ちょっと買いに行こうか」
そう言って仕事終了後に行くことを約束した。
買い物は漢途だけに行かせることにして、真影は下ごしらえをし始めた。
野菜を洗っていると二人が帰ってきた。
「これ、何だと思う」
白くて焦げ目がついたものを差し出す。
「あの小麦粉じゃない粉、あれを水で溶いて鉄板で焼いてた」
白いものに何か野菜や肉が巻いてある。
「なるほど、あれはそう使うのか」
どうやらあの米粉を使いきれそうだと真影は安堵する。
使いにくいのでどうしても手が伸びなかったのだ、粉だからなかなか痛むことはないだろうけれど、使い切りたかった。
「やっぱり、行ってみてよかっただろう」
そう言ってさらに買ってきたものをどさどさとおろす。
「どれだけ買ってきたの?」
真影のこめかみが引きつる。
そして慌てて調理手順を組み立てなおす羽目になった。




