誤解だ
手なずけていた女官に桂花の様子をうかがわせる。
菫は案の定いなかった。
女官にいろいろ聞きだそうにもお互い詳しい事情説明がお互い出来ないということに気付きのめりそうになった。
「そういえば、どうして桂花殿を探そうとしたんですか?」
「菫が王が桂花をお呼びだと言っていたから、なのに姿が見えないって」
「あら、次は桂花殿なのかしら」
「次?」
女官は意味ありげにほほ笑む。
「おとぼけになることはありませんよ、ここにいる女官はすべて知っておりますから」
いかにも何かほのめかすようないいように、美蘭は違和感を覚える。
「何が言いたいの?」
「この部屋に陛下がいらっしゃるでしょう、陛下が後宮を訪れた時は必ず」
その言葉に一気に血の気が引く。
「な、なんでそんなこと?」
「お気になさらず、みんな知っていると言っていたでしょう」
「みんなって」
美蘭の顔色は白を通り越して青くなっていた。
「後宮女官全員です」
美蘭の希望を打ち壊すべく女官ははっきりと言い切った。
「あの、どういう噂になってるの」
冷や汗をだらだら流しながら美蘭は尋ねた。
「陛下の本当の寵姫は勿忘草殿だということです」
頭から血が下がりすぎて数秒意識を失っていた。それを根性で持ち直す。
「はい?」
とんでもない誤解が後宮の裏側で広がっていることを悟り美蘭はめまいを覚え足元がふらついたが根性で持ち直す。
「鶏頭殿はお気の毒ですが、その隠れ蓑、真実の寵姫勿忘草殿を守るための盾として使われていることを女官である私たちはすべて知っているということですわ」
ちょっと待てやと叫びたいが、舌が口の中で凍り付いてうまく動かない。
「どうしてそんな話になっているわけ」
顔が引きつっていることはわかっているが、それでも何とか誤解を解きたいと美蘭は食い下がってみた。
「桂皮と流涎香、この二つは勿忘草殿の香に使ってはおりませんわ、そしてそれを合わせた香を使っているのは陛下のみです」
お香ってそんなにわかりやすいのか? と美蘭は詰め寄りたくなった。
王の使っていた香料の残り香なんて美蘭は全く気付いていない。それに掃除で少しだけ入った女官が気づくとはどんな臭覚をしているんだ。
戦慄している美蘭を無視して相手はどんどん突っ込んでくる。
「私にいろいろと聞き出そうとするのも今のお立場が不安だからなのですね、ですが、私どもは陛下のお味方、そのご寵愛を受けた方の味方ですわ」
うわあ、すごく安心できない。と美蘭は心中でひとりごちる。
寵愛は失われることもあるのだ。そして失われたら一気に回りが敵になる。
そして美蘭は寵姫ではない。寵愛なんて一度も受けたことはない。どう考えても自分の周りは詰んでいるんじゃないだろうか。
もう笑うしかない。次に王が来たらこれはじっくりと話し合わねばならない事態だ。
そんな美蘭を視界に入れているにもかかわらず見ていない女官はかなり幻想的な美しい愛とやらを切々と語っていた。




