部屋
桂花が意識を取り戻したという知らせは一応美蘭にも届いた。しかし面会謝絶と言い渡され、困惑を隠せないでいた。
「菫は?」
「それは私の関知いたすことではありません」
女官はそれだけ言うと出て行った。
桂花の部屋はがらんとしていて、自分の趣味の持ち物など何もなかった。美蘭の部屋とは大違いだ。
むろん美蘭は自分が極端なのはわかっている。
すでに部屋の半分が工房と化しているからだ。
寝台の脇に小さな宅と椅子が二つ置いてある。それが入り口から近い右側だ。奥の左側は刺繍台とそれ用の背もたれのない椅子、そして組紐を作る道具類を乗せた卓、それに反物が各色そろえられ、小さな引き出しのついたタンスを要求し、それには刺繍糸や組紐用の絹糸がぎっしりと詰まっている。
様々な用途に使う針もまとめられておいてある。
なまじ内装がそれなりに豪華なためにじみ出る工房的な小道具の違和感が激しいことおびただしい。
絶対ここが後宮だと信じないだろう。
同じく後宮にあるまじき内装になっているのが玉蘭の部屋だ、要求し集めた書物が壁を占領し、完全に巨大な寝台のある書庫と化している。
王が来ることを最初から想定していない。
ついでに書棚で例の出入り口はふさがっている。
扉以外の壁はすべて書棚で埋まっているので当然だが。
書物は安いものではないので、玉蘭がダントツで金のかかる女なのではないかと思うが、
職務放棄した女が一番金がかかるってそれでいいのだろうか。
それは極端な例として、美蘭が仕事をした相手の部屋を何度か訪れたが、やはり自分の好みの物を飾ったりしているようだった。
「あげたのは仕舞ってあるみたいで外に出てたことはなかったなあ」
いつまでたっても来たときのままなのは桂花の部屋だけな気がする。
「玉蘭のとこ、いこ」
仕事をする気にもならず、美蘭は玉蘭の部屋に向かう。
玉蘭は自室でお茶を飲んでいた。
「お茶、飲むか?」
美蘭の顔を見てそう言いながらお茶を淹れる。
お茶を淹れる所作は洗練されている。
美蘭も少し習ったが、どれほど美しい所作でお茶を淹れるかも基本なのだという。
正直所作の美しさと、お茶の味に何の因果関係があるんだと思いつつお茶を淹れてもらった。
わからないなりに、お茶はおいしかった。
「桂花が意識を取り戻したって」
「ああ、それはよかった、お見舞いに入ったのか?」
「意識を取り戻したのに、会いに行ってはいけないって言われた」
「なんで?」
桂花が意識不明の時は顔を見ることぐらいはできたのだ。
「なんで、だろう」
玉蘭には知らせた。でもわからないことはわかる人間に聞けばいい。
次は菫のところに行こう。
菫がいればだが。




