どこに進むか
王は女官長を前に困惑していた。
すべては誤解なのだが相手はそんなことにひるむ様子もない。
「誰をご寵愛になろうと結構、しかし後宮の秩序を乱すような行いは避けてくださらないと」
女官長の目が座っている。
「いったい何を言っているかわからないのだが」
「勿忘草殿のお部屋に一度も行っていないとおっしゃいますか、ですが、あのお部屋に陛下の残り香があったと報告を受けております。
一度もお渡りになっていらっしゃらないお妃の部屋にどうしてそんなものが残っておるのか不思議ですわねえ」
女官という連中の底時からを侮っていた。しかし後悔しても始まらない。
「よろしいですか、通ってもいないお妃が解任したらどうなります。不義の子を孕んだとして母子ともに処分されることも珍しくないのですよ」
「いや、そんな可能性が」
「いいですか、いくら幼く見えようが、あの方は妙齢の女性、それにです後宮の歴史を紐とけば十二歳で後宮入りし、十三歳で出産された方もいるのですよ」
「とりあえず、先祖の変態行為は聞かなかったことにする。とにかくそのような事実はない」
女官長は疑いを解くつもりはないようだ。座った目から鈍い光を放っている。
長年、後宮で泥仕合を何度も潜り抜けてきたのは伊達ではないようだ。
「勿忘草殿のことは早急にそちらで何とかしてください、もしほかの方々に害されるのが怖いというならそれこそ上級妃として別のところにやってしまえばいい」
上級妃のいる場所は下級妃は入れない。入れないなら何かをしようにもできない。
「勿忘草殿には何もできません。そちらで考えてください」
肩を怒らせた女官長の背中を見送りながら王は頭を抱えた。
「で、どうなさるおつもりで」
即位前から王に仕えている側近は冷たく訊ねた。
王に無断で集められた女達、その集められた経緯もまともなものではなかったため王は元々その女たちを相手にするつもりはなかった。
集めた人間の真意を探ったら、すべての女達は適当に行き先を決めて放り出すつもりだった。
「まあ、一人ぐらいは置いておくのもいいでしょう」
「だから違うと言っているだろう」
「少なくとも王が手駒に使ってもいいと思われるぐらい頭の回る女なら、そう愚かなことはしないでしょう」
愚かな女のほうが気を使わないで楽だという意見もあるが、本当に愚かな人間は賢い人間の意表を突くような行動に出ることもある。
そのうえ筋道を理解させることに障害が出ることもある。ならば賢くて、それなりに身の置き所をわきまえた女のほうが使い勝手がいい。
「確かに愚かではないし、それなりにわきまえたところもあるが」
幼気な容姿は微妙に手を出すのに罪悪感がある。
十二歳に手を出した先祖の存在は聞かなかったことにして抹消することにして、家族がいて、帰るところがあって、そして世の中で生きていける技術を持った女を後宮で飼い殺すことにも罪悪感を感じる。
「まあ、成り行きに任せよう」
あきらめたようにため息をついた。