女官達
女官達というものは常に人形のように無表情でただ黙々と仕事をこなせばよいと思われているが、実際には、彼女達も生身の人間であるし、生身の人間であれば当然自分の意志というものも持っている。
そんなものを自由にさらけ出せるのは、後宮の妃達が入ってこれない女官専用の場所だけだった。
今日もうっかり妃達に聞かれてしまったら最後な会話が繰り広げられていた。
「しかし、今日聞いた鶏頭殿の告白あれってわざとかしらねえ」
お茶を片手に一人が言いだした。
「とうとう告白したのよ、鶏頭殿、王の盾に使われているって」
「ありゃ、やっぱり耐えられなくなったのねえ」
憐れむように一人が何度もうなずく。
「その相手がなんと」
「誰よ」
「勿忘草殿よ」
「ああ、知っててやったのかしら」
一人がくすくすと笑う。
「どういうことよ」
「王の本当の相手は勿忘草殿だからよ」
「ええ、だってそんな風には決して見えなかったじゃない」
周囲がざわめく。
「あら、貴女達、観察眼が足りないわね、あの対面の場で微妙に二人は目をそらしていたのよ、勿忘草殿だけなら気後れしたと思うところだけど、王もとなればねえ」
「そういえば、他の殿方が勿忘草殿を見ていろいろ言っていたあたりから妙に機嫌が悪くなったわ」
女官は影のようにひっそりとその場にいる。存在を忘れさせるくらいひっそりと、そのため、思わぬところを見てしまう。
むろんそれを仲間内以外で出すことは厳禁だ。それはみんな心得ている。
何しろ命がかかっているのだ。
口が滑ったばかりに命を失った誰かの話は常に頭に置いておかなければならない。
「それにしても、あの法則は正しいってことかしら」
「法則って?」
「殿方は逃げる者を追う」
ほとんど犬扱いだが、すり抜けていくものをついつかんでしまうという衝動は誰にでもあるものだ。
「そうねえ、あと、残り香があったわ」
そう言いだしたのは香を担当している女官だ。あらゆる香を嗅ぎ分けるその臭覚は犬に匹敵するとすら言われている。
「あの妃には軽やかな感じの香を合わせてあるのに、時々私が処方しなかった香の残り香が残っているの」
むろん多少離れた場所からでも王の焚き染めた香の匂いは嗅ぎ分けることができる。それに男性用と女性用では合わせる香の種類が違う。
「それじゃあ、やっぱり」
女官たちは当然妃達の部屋の抜け穴の存在も知っている、王はそれを使って鶏頭の部屋から勿忘草の部屋へと篭脱けの要領で潜り込んでいるらしい。
それはすでに確定となっている。
「しかし、もし知っていてやったなら鶏頭殿も相当ね」
「もしかしたらカマをかけたのかもしれないわね、もし勿忘草殿が関係なかったとすれば危ない賭けではあるけれど」
「そうね、でも私たちは間違いないと確信が持てたわ、思い切り動揺してたわね」
「あのこわばった顔は間違いないわ」
女官たちの声は高く響くがそれでも遠く離れた場所にある、妃達の居場所までは届かない。壁と距離があるからだ。
ここにいるのは女官だけだ。
「やれやれ」
女官長はそう言ってその場を離れる。王が誰を寵愛しようと勝手だ。後宮にいる相手はすべてそのために置かれている。
しかし、これは黙っているわけにはいかない。
不退転の覚悟で、女官長は王に直談判にやってきた。




