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一触即発

 刺繍の仕事を始めてから美蘭は今まで見分けのつかなかった薔薇と椿、石竹、桜、菫に杏の区別が少しつくようになってきた。

 どうやら衣装はその名の由来になった植物にちなんでいるらしい。

 よくよく考えれば美蘭の衣装も緑のほかは、青と水色、勿忘草の色だ。

 だから杏と菫は一発で見分けがつくようになった。ただ薔薇と椿、石竹と桜が紛らわしい。

 そんなことを考えながら美蘭はお茶を飲んでいる。

 広間でお茶会のようなものが催されていた。

 お菓子の乗った卓が用意され、長い卓に座った妃達に適当に女官たちが配る。

 お茶は選べるらしいが、美蘭はお茶の種類など二三しか知らないので、お任せで飲んでいる。

 お茶を飲みのに飽きたら、持ってきた組紐を組む道具で仕事を再開しようと思いながらお茶を飲みつつ周囲を観察する。

 睡蓮と百合がいつの間にかくっついている。そしてその周りに桜?と石竹?がたむろっている。

 桜と石竹はどちらも薄紅を着ている。そのうえなんとなく顔立ちも似通っているため区別がつけにくい。

 今は仲良く鶏頭に対抗しているがおそらく誰かが王の手が付けば壊れる同盟だろう。 そして鶏頭のそばには薔薇?と椿?が。薔薇と椿もどちらかが赤を着れば片方が白、美蘭はさして親しくはしていないので多分薔薇か椿だろうと区別する気もない。

 それぞれが無言でにらみ合っている。いっそ罵り合えばいいのにと思うが、うかつな口の利き方を王に知られてはと思えば行動できないのだろう。

 その周囲を菫と杏がおろおろとしている。

 何方についたものか決めかねているのだろう。しかしそう迷える時間は多くない、蝙蝠は嫌われるものだ。

 玉蘭が美蘭のそばに座った。そばには桂花もいる。

 どうやら自分たちは戦線離脱組とみなされているようだなとあたりをつける。

 最初から家に帰ると言い出した美蘭と王にさして興味を示さない印象の薄い桂花、同じく玉蘭。さらに玉蘭には一番の不美人という特徴まである。

 顔立ち自体は整っているのだが。大きく均整を崩すのが、かなり垂れすぎた垂れ目だ。もう少し水平に近ければかなりの美女と呼ばれるのだろうが、それが大変残念だ。

 玉蘭は持ってきた書物を読み始めた。

 容姿に関しては美蘭も人のことは言えないのであえて言わないが、歳不相応に幼い顔立ちと体形は、妃達の中で思いっきり悪目立ちしている。

 サクサクと乳酪を練りこんである焼き菓子を美蘭はほうばる。

 香ばしい香りが鼻腔を満たし、しばし至福の時間を楽しんだ。

「いっぱい食べて大きくおなり」 

 玉蘭が頭を撫でてきた。たっぷりとした白い袖で結い上げた髪が崩れそうになる。

「もう成長期は終わった」

 子ども扱いはうれしくない。

「え、そんな年なの?」

 心底不思議そうな顔をしているのを見て、美蘭は目をむいた。

「一応、男の相手をするために連れてこられたんでしょう。そんな年なわけないわ」

「男はいろんな趣味があるからね」

「王がそんな趣味だったらこの国が亡ぶわ」

 桂花がお茶をすすりながら玉蘭をいさめる。

「まあ、そんな趣味の人もいるけど、一応子供が産めなくちゃいけないわけだしねえ」

「仕事、するわ」

 足元に置いておいた組紐を作る道具を取り出して、美蘭は作業を再開する。

「誰に頼まれた仕事?」

「睡蓮」

 桜や石竹より濃い紅色の衣装を着た睡蓮に合わせて、様々な水色と緑をあわせてある。

「桂花が以前あげた肩掛けを使ってくれたから注文が順調でありがたいわ」

 美蘭がそう言いながら手を動かす。

「勿忘草殿は器用だな」

 そう言ってじっと美蘭の手元を玉蘭は観察している。

 知識欲は書物に限らないようだ。

 本日は俯瞰的に妃達を観察する。それから作りためた手芸品で女官たちを少し買収してみようと今後の計画を立てる。

 女官長がやってきてこう宣言した。

「本日王がお渡りになります」

 一気に空気が硬化した。美蘭の周囲は別だが。二手に分かれてにらみ合う女達を見ながら今後の展開を美蘭は考えていた。


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