未来への展望
翌朝、真影は仕事を始める前に呼び出しを食らった。
呼び出された先には昨日の官吏が待っており、彼に先導されて、宮廷の奥に向かう。
もしかして自分の存在って機密事項になるのではないだろうかと真影は考えた。
おそらくそうだろう、ということはこの官吏は王の信任が厚いということだろうか。
「何を考えている?」
急に振り返られて、真影は慌てて首を横に振る。
「なんでもありません」
かなり立派なつくりの区画だ。
おそらく相応の身分の人しか入れないんだろうなと思いながら進んでいく。
「ここだ、さっさと入れ」
ぶっきらぼうにそう言われて真影は部屋に入る。
そこに少々太り気味の初老に片足突っ込んだくらいの人が立っていた。
「寧州長官を務めている閑儀弊である」
口調は重々しいが、どこか面白がるような光がその眼の中にはあった。
「見習いの河真影です」
あえて下手に出た。
「事情は陛下より伺っている。君は自分が思っているよりも厄介な立場になっているよ」
そう言って長官は椅子に座り、真影はその前に立つ。
「私が君を預かる期限は五年だ。五年後に君は寧州に残るか、天暁に戻るか決めなくてはならない、間違いなく君自身の意思でね」
「五年ですか」
「五年の間に君は自分の先行きを決めるようにとの王の計らいだ」
「先行き?」
「どうしたい?」
真影は大きく息を吐いた。
「決まっています、天暁に戻ります」
「命が、ないかもしれないのに?」
「覚悟の上です」
腹は決まっていた。このまま寧州で安穏と暮らすつもりはない。
そうしたら目標を果たせない。
「僕は姉に育てられました。もともと姉がいなかったら今ここで生きてはいなかった。だから、姉に恩を返すのが目標です。そのために寧州にいたらそれをかなえることができない」
「安全に、生きてほしいとあの方は望んでいるかもしれないのに?」
「それでも僕はしたいようにします」
それは揺るがない決意だった。
「母が死んだとき、僕は乳離れしたかしないかくらいだったそうです。父はそんな僕に無関心というか放置していて、姉だけが僕を生かそうとしてくれた」
「そうですか」
そう言ってから長官は首をかしげる。
「ええと、確か何歳違いでしたっけ?」
「三歳ですよ」
「つまりそれは」
長官が思わずのけぞる。
「幼児が、幼児を育てようとしたということですか」
「大変だったと思います」
「それ以前の問題だと思います」
よく生きてたなと小さく呟いたのが聞こえたが真影はそのまま続けた。
「僕が生きて射られたのも姉のおかげです、だから姉に恩返しを澄まさないではいられません、でもたった一つ言いたいことが」
そして真影は遠くを見つめる目をした。
「障害をはね上げてくれてありがとう、姉さん」
王の寵姫の役に立つこと、それはなまなかのことではなかった。




