距離
「君はしばらく寧州に預けることになった、君のお友達も一緒だから安心していいよ」
いきなりかなり遠方に追放すると言われた。
「とにかく、今王宮は君に危険だ、理由はわかっているよな」
心当たりは一つしかない。それは姉そっくりな顔だ。
男女ということで多少は違うが、それでも知っている人間が見たらすぐわかるレベルでそっくり。
多分あの大臣も吾亦紅の妃も真影の顔を見た瞬間にそれと悟ったんだろう。
もしそうなら適当にごまかして逃がすわけないよなと力なく笑う。
「わかりました、僕としても宮中に混乱を招きたくはありませんので仰せには従います」
王宮内で仕事がしたかったが、今この時はまずい、下手すれば命が危ういのだ。それがわかっているから美蘭もそのことは了承済みらしい。
「誰も何も知らないのはかえって危ないから、信用のおける相手だけはこっそり話しておいた。事後承諾で済まないが」
美蘭は先程ぬぐったはずの涙が再びあふれそうになっている。
軽く顔を伏せて袖口で涙をぬぐう。
「それは構いません、しかし、その友人たちまで寧州に送る必要はないのでは」
自分のせいでとばっちりを食わせたことになる。それは少々心苦しい。
「いや、もともとお試し受験合格組は地方に送るはずだった。王都で生まれて王都しか知らない連中に一度遠方を飛ばして物事を検分させるという名目でな、だから変更は行き先が寧州になったくらいだ。それと、明日寧州の長官を呼んであるので一度面談しておくように」
随分と大ごとになってきた。
「五年、時間をやる。その間に今後を決めろ、こちらに戻ってくるのかそれとも寧州で生涯を閉じるか、どちらを選んでもそれは真影の判断だ、私としてはそれを尊重する」
真影は王の顔を見上げた。
「君の人生の希望とかなり違った道に連れ込んだことは謝罪しよう」
それだけを言って、王はその場を離れた。
「美蘭と、話し合ってくれ」
それだけを言い残して。
真影と美蘭は互いに見つめあった。
「僕はどれくらいで寧州に送られるわけ?」
「そうね、研修はもうすぐ終わる。そのあとすぐよ」
美蘭は静かな面持ちでそう答えた。
「というか、なんで後宮にいるわけ? 女官「奉公中に見初められた?」
「違うわ、最初から後宮に送られたのよ、いわゆる有力な家の娘を受け入れるには今は問題が多すぎる。かといって後宮が身体と体裁が取れない、そんなわけで訳ありの家の娘がほかに何人か送り込まれていたわ」
「そういう事情なら、うちに挨拶に来ないよねえ」
わざわざ挨拶に来た相手を王だと見抜けなかったことは誰も責めないだろう。
「いろいろあったのよ」
そのいろいろが聞きたいのだが、おそらく吐く気はないだろう。」
「姉さんは、幸せ」
美蘭は目を伏せた。
「私は、飼われているのよ。たとえどんなに広々とした空間で愛情を持って対応してもらったとしても、その事実は変わらない、それでも、その中で精いっぱい、幸せをあきらめないでいるつもり、それ以上は言えないわ」
「そう、それなら僕もそれ以上は言えないね」
真影はそれだけを言って言葉を切る。
多分、兄弟として話すのはこれが最後という気がした。
王の寵愛ゆるぎない寵姫相手にたとえ弟だとしても、もう気安く話せる相手ではない。
「それでは、失礼いたします、芍薬殿」
真影は膝をついて一礼する。
その時、視界の片隅に美蘭の握り締めた拳が小刻みに震えているのに気が付いたが、あえて目を伏せ、視界から外した。
「これからもよく学ぶのですよ」
かすかに声が震えている。
先ほど迎えに来た官吏が再び連れ戻しに来た。
「一度妃となれば、親でもその名を呼べない、あの方の名を呼ぶ権利は王だけのものだ」
振り返らないままそういう。
「これから気をつけろ」
真影は目がしらに力を入れる。今度は流れてきそうな涙をこらえるために。




