迅速な判断
圭樹は自分の目の前の光景を呆けた顔で見ていた。
泣きながら、兵士に訴える真影の姿は男と知らなければ見惚れそうに愛らしく哀れを誘う。
本当にこいつ生まれる性別間違えたよなとしみじみ思っていた。
「お前は」
「俺もです、友達を捕まえられて脅迫されてたんです」
別の兵士が圭樹に詰め寄ると圭樹もあわてて答えた。
ほんの数刻さかのぼれば、何のことはない、真影は最初に兵士に見とがめられた瞬間に助けを求めたのだ。
悪い奴に脅されて無理やり大それたことに巻き込まれたと、涙ながらに訴え出た。
そしておそらく監視並びに実行犯と思しき輩がいるあたりを指さして、捕まえてくれとあっさり売り飛ばした。
びっくりするぐらい一連の行動に真影は全く迷う様子もなく全うしてしまった。
恐る恐る兵士に伺い真影のそばによる。
涙は思ったより布を濡らしていなかった。
「眼がしらに力を入れるのがコツね、そうすれば数滴ぐらいの涙はこぼれるよ」
悪びれない様子で、小声で圭樹が疑問に思ったことをこたえる。
「どおすんだよ、漢途とか金武とか」
まさか、そうそう何のためらいもなく裏切るとは思わなかった。
「あのね、あの二人のことを心配して相手の言うとおりにしてさ、それで本当にあの二人は助かるの?」
真影は冷めた眼差しでそう言った。
「どう考えたって、僕がどんな行動をとろうと、あの二人に対するあの連中の待遇はそうかわりゃしないよ、それなら僕が最善の行動をとって何が悪い?」
「最善、なのか」
「少なくともずるずるあの連中の言うがままに動いているのが最善なわけないってことぐらいわかるだろう。それにあの連中の連絡系統はスカスカだ。多分まだ大丈夫なんじゃないかな?」
最後のほうはいまいち自信がなかったのか真影の言葉も少し濁る。
「成功しても失敗しても同じか?」
「成功しないほうがいいと思う」
成功とはたぶん国王暗殺、そんなものにかかわりあったら、たとえ脅迫を受けていたとしてもそんな事情は酌量されないだろう。だから行動に移す前に裏切るのが最上なのかもしれないとは思うが、それでも何となく割り切れない気がした。
「もしこれで、金武や漢途が殺されたとしたら、僕は甘んじて責任を取るよ、たとえあいつらの家族に死ねといわれてもね」
そう真影が言うと、圭樹としてもそれ以上言い募ることはできなかった。
圭樹としてもわかっているのだ、真影がやったことはたぶん間違いではない。だが、展開が早すぎて自分にはついていけないだけなのだ。
「まあ、死ぬ気はないけど、状況を考えればご家族もそれほどことは要求しないだろうし」
「おい、いろいろ台無しだよ」
「死ねない理由もあるしね、とりあえず姉さんに恩返ししないと死ぬに死ねない」
真影のお姉さんが、歳が近いにもかかわらず真影の事実上の親代わりだという話は、真影の親しい人間はみんな知っていた。
「目的がある以上、迷ってる暇なんかないんだよ」
「やれやれ厄介なことになりましたねえ」
とりあえず、自力で真影達は身の安全を図ったのだが。
李柴源は真影がこれほど思い切った正確であるとは思いつかなかった。
「さっさとあの二人と合流させますか」
すでに金武と漢途は保護されている。
しかし、かわいらしい女装姿でしおらしくしていれば本気で少女にしか見えない真影を眺めながら、後で男と分かったらあの兵士さんたちへこむだろうなと明後日のことを考えていた。




