彼の知らない事情
簡単な軽食といっても庶民から見れば十分豪華で手の込んだ食事を目の前にして、芍薬の妃はため息をつく。
王の命令で自室に戻った後、いつもならせいぜい二人のおつきの女官の数が増やされ、さらに、女性兵が、自室の周りにたむろしている。
この状況で食欲のわくはずもない。
箸で軽く麺料理をつつきながらため息をつく。
事前に知らされていたが、それでも思いとどまってほしかった。
そうすれば吾亦紅の妃も適当な大臣の跡取り息子あたりに下げ渡してすべて不問にするはずだったのだ。
まったく愚かなことをしたものだ。
芍薬の妃はそう思いながらのろのろと箸を使う。
「芍薬殿、王が直々に話があると」
そう言われて、箸をおいた。
「話?」
事態が始まったら、芍薬の妃は後宮で待機としか言われていない。さらに自分に話さねばならない何が起きたのだろう。
女官たちが、立ち上がった芍薬の妃に上着を着せかけ、髪を直した。
さらに軽くだが化粧直しもされて、芍薬の妃は王のもとに向かう。
陰といわれる存在は、静かに今度は天井の上にいた。
王宮の天井はそれなりに頑丈なので人一人乗っても余裕だ。
彼はそっとところどころにあるのぞき穴を除きながら状況を分析していた。
そろそろ王の兵たちがこちらに向かうはずだ、少々困った事態になってしまった見習いたちを何とかしなければならない。
やれやれと軽く首をこきこきと鳴らし、前に進む。
そこでは少年たちが二手に分けられていた。
「そこのお前は人質だ、妙な真似をすれば仲間の命はない」
少々いかつい、武官で通じそうな少年が抑えられていた。
そして少女のような容姿の少年が、何人かの男達に取り囲まれじりじりと間合いを詰められている。
その男達は手に手に女装の道具を手にしている。
化粧用の刷毛を手にしている男もいる。いろんな技術を持った輩がいるものだ。
ここで飛び降りて助けるのもたやすいが、騒ぎを大きくしすぎるのもまずい。
しばらく待つことにした。
あてはあった、決して面白いから放っておこうと考えたわけではない。
ちゃんとあてはあったのだ。
一度屋根裏から出て、木の上に移動する。
ひっそりと潜む男を見つけた。
相手も仕事だからか、ちゃんとそこにいた。
「あっちだ」
大まかな方向だけ教えて、影は去った。
男、李柴源は影と呼ばれる存在が指さした方向を見た。
彼はその存在を知っていた。闇の中でも覚えてしまった気配はわかる。
指さした方向に求めていた存在がいることも。
「まったく、厄介なことに巻き込まれたものですね」
そう呟きながら、すでに適当な取り巻きらしい男から奪った衣類に着替えずみであるため仕事は続行するつもりだ。
「では適当に済ませますか」
そう言いながら、彼はそっとその場所に足を運んでいった。




