第7話 おかえり、クリスタル
王城の地下にある封印文書庫。セレスティアたち4人は、200年前の北方戦争に関する記録を調べていた。
「ここです。騎士が死から戻った事件の調査報告が残されています」
セレスティアが古い書物を開く。そこには、北方の廃神殿で死亡した騎士が生還した事件と、その後に行われた調査について記されていた。
「騎士団と教会の合同調査で、神殿の地下から祭壇が発見された。さらに、その奥には巨大な石造りの門があった……」
「それって、リリアが見つけた古文書の記述と一致するわね」
ミレーヌが記録を覗き込む。
「天上と地上を結ぶ門。間違いありません。これが死者を蘇らせるための装置だったのでしょう」
リリアが確信を込めて言った。しかし、報告書には続きがあった。門の調査中に大規模な魔力の暴走が発生し、調査隊に複数の負傷者と行方不明者が出た。その後、王家は門の存在を秘匿し、神殿への立ち入りを禁じたという。
「危険な装置だったのね」
「それでも、調べる価値はあるわ。私の術式と組み合わせれば、クリスタルを呼び戻せるかもしれない」
ミレーヌは研究資料を閉じた。
「すぐに北方へ向かいましょう」
セレスティアの言葉に、3人はうなずいた。
数日後。
4人は北方の廃神殿に到着していた。
雪に覆われた神殿の内部を調べると、崩れた祭壇の裏側に地下への階段が見つかった。慎重に降りていくと、古い石扉が行く手を塞いでいる。
「この奥に何かあるわね」
ミレーヌが魔力を流すと、壁面の文字が青白く輝いた。直後、石扉が開き、巨大な石の兵士が姿を現した。
「侵入者を排除する守護人形でしょうか!」
リリアが杖を構える。
石の兵士が腕を振り下ろした。エリシアは大剣で攻撃を受け止め、ミレーヌが雷撃を放つ。動きが鈍ったところへ、エリシアが懐に飛び込んだ。
「そこだ!」
大剣が胸部の魔石を砕く。石の兵士は崩れ落ち、再び地下に静寂が戻った。
「なかなか手荒い歓迎だったわね」
「先へ進みましょう。ここまで守りが厳重なのですから、重要なものが残されているはずです」
セレスティアの言葉に従い、4人はさらに奥へ進んだ。
やがて、巨大な地下空間にたどり着く。中央には円形の祭壇があり、その奥には石造りの門が立っていた。門には古代文字が刻まれ、周囲には魔力を蓄えるための装置が並んでいる。
「これが……、天上と地上を結ぶ門」
リリアが息を呑む。ミレーヌは装置を調べ、魔力の流れを確認した。
「間違いないわ。これは別の世界に存在するものと接続するための装置よ。天国にいるクリスタルの魂を呼び戻せる可能性がある」
「本当に!?」
エリシアの顔が明るくなる。
「ただし、門を開くには大量の魔力が必要。それに、魂を受け入れる肉体も用意しなければならない」
「それなら、私が魂を導きます」
リリアが祭壇に手を添えた。
「肉体の再構築は私が担当する。セレスティアには門の起動をお願いしたいわ」
「分かりました。王家に伝わる魔力を使いましょう」
4人はそれぞれの役割を確認した。これまで別々に進めていた研究が、ようやく1つにつながった。
「これで、クリスタルを迎えに行けるんだ」
エリシアが門を見上げる。
「ええ。ただし、最後に1つ確認しなければならないことがあります」
セレスティアは門の下部に刻まれた文字を指差した。
『門を開く者は、呼び戻す魂に帰還の意思を問わなければならない』
「クリスタル自身が帰りたいと願わなければ、蘇生は成立しないということですね」
リリアが読み上げる。
「なら、直接聞けばいい。あいつが帰りたいって言ってくれるまで、何度だって呼びかけよう」
エリシアは拳を握った。
4人はすぐに蘇生の準備を始めた。
数日後。
祭壇の準備が整った。セレスティアが王家の魔力を解放し、ミレーヌが肉体を再構築する術式を展開する。リリアは両手を組み、魂を呼び戻すための祈りを捧げた。エリシアは3人のそばで、門が開くのを見守っていた。
「始めます!」
ミレーヌの声とともに、祭壇が光り始めた。門の表面に青白い光が広がり、空間が大きく揺れる。中央には人の形をした光が生まれ、少しずつ輪郭を作っていった。
「クリスタル!」
エリシアが門に向かって叫ぶ。
「聞こえているなら、返事をして!」
その頃、天国では。
「ふぅ~! 気持ちよかった!」
クリスタルは浴槽の縁に腰掛けていた。魂の疲労を癒やす泉のおかげで、胃の痛みはすっかり落ち着いている。
「クリスタル様、お身体の調子はいかがですか?」
シエルが尋ねる。
「ばっちり! もう全然痛くないよ!」
「それはよかったです。しばらくは無理をせず、ゆっくり過ごしてくださいね」
「はーい!」
クリスタルが元気よく返事をした、そのときだった。
『……おい』
「ん?」
『何か聞こえないか?』
「何が?」
『誰かが呼んでいる』
クリスタルは耳を澄ませた。
「クリスタル!」
聞き覚えのある声だった。
「……エリシア?」
「クリスタル! お願い、帰ってきて!」
続いて、ミレーヌ、リリア、セレスティアの声も聞こえてくる。
「えええ!? みんな!?」
シエルが驚いて振り返った。
「どうやら、地上から呼びかけが届いているようですね」
「本当に!?」
『だから言っただろう。あいつらは諦めていない』
クリスタルは頭を抱えた。
「まさか、本当に迎えに来るなんて……!」
門の向こうに、4人の姿が映し出された。
「クリスタル!」
エリシアが手を伸ばす。
「迎えに来たよ。今度はあんたを連れて帰るために!」
「でも、私、もう死んじゃってるんだよ?」
「知ってる!」
「天国の生活も楽しいよ?」
「それも分かってる!」
エリシアは涙をこらえながら叫んだ。
「それでも、あんたに帰ってきてほしいんだ!」
ミレーヌも一歩前に出た。
「あなたがいなくなってから、ずっと後悔していた。もっと早く助けられたんじゃないかって。今度こそ、あなたを守りたいの」
「私も、もう一度あなたと一緒に過ごしたいです」
リリアの目から涙がこぼれる。
セレスティアは真っすぐクリスタルを見つめた。
「あなたがどこで暮らすかは、あなた自身が決めてください。私たちは、あなたに帰ってきてほしい。でも、その意思を無視するつもりはありません」
クリスタルは4人の顔を見つめた。みんな泣いていた。自分がいなくなってから、ずっと苦しんでいたのだろう。危険な場所を調べ、難しい魔法を研究し、こうして天国まで迎えに来てくれた。
「そっか……」
クリスタルは笑った。
「みんな、私に会いたかったんだね!」
「当たり前でしょ!」
エリシアが叫ぶ。
「うん! 私もみんなに会いたかった!」
クリスタルは大きくうなずいた。
「だから、帰るよ!」
白い光がクリスタルを包み込む。門が大きく輝き、少女の姿が光の中へ消えていった。
「……ん?」
クリスタルが目を開けた。目の前には、涙で顔をぐしゃぐしゃにした4人がいた。
「クリスタル!!」
エリシアが飛びつくように抱きしめる。
「うわっ!? エリシア!」
「本当に帰ってきた……! クリスタルが……!」
ミレーヌも、リリアも、セレスティアも駆け寄ってくる。
「身体に異常はない?」
「大丈夫だよ! どこも痛くない!」
「本当に?」
「うん! 元気いっぱい!」
リリアがクリスタルの手を握った。
「おかえりなさい、クリスタル」
「ただいま!」
セレスティアは安堵したように微笑んだ。
「もう、勝手にいなくならないでくださいね」
「えへへ、ごめんね!」
4人に囲まれながら、クリスタルは満面の笑みを浮かべた。
それからしばらくして。クリスタルは王城に用意された部屋で、4人に囲まれていた。
「これからは、ずっと一緒だからね!」
エリシアがクリスタルの手を握る。
「必要なものは何でも用意するわ。生活に不自由はさせないから」
ミレーヌも微笑む。
「困ったことがあれば、いつでも相談してくださいね」
リリアが優しく声をかけた。
「あなたのためなら、できる限りのことをします」
セレスティアまで加わる。
「みんな、ありがとう! 私、すっごく嬉しいよ!」
クリスタルは満面の笑みを浮かべた。
『……おい』
「ん?」
『少しは俺のことも考えろ』
「あっ……」
『これから毎日こんな調子なのか?』
クリスタルはお腹を押さえた。
「ちょっと胃が痛いかも……」
4人の表情が一斉に変わった。
「胃が痛い!?」
「すぐに医師を呼ぶわ!」
「回復魔法を使います!」
「必要なものはありますか!?」
「えええ!? そんな大ごとじゃないよ!」
クリスタルは4人の慌てぶりを見て、思わず笑ってしまった。
天国でのんびり暮らすことはなくなってしまったけれど、大好きな仲間たちと再び一緒にいられる。それは、とても幸せなことだった。




