3-10 僥倖
机の上には、人の名前が連なる紙。
その大半に赤い取消線がひかれている。
遠心分離機が回り続ける音が響く。
その様子をじっと見つめる女医がいた。
美晴は使える機材が限られていることに、もどかしさを感じていた。
遠心分離機が止まった。
美晴は次の検体をセットし、スタートボタンを押した。
そして、分離した血液の検査を始める。
「この学校は全滅ね」
紙一枚分のリストが全て取消線で埋まる。
それまでの学校からは一つか二つ、EかD判定の検体があった。
美晴が欲する、C判定以上の検体はまだ出ていない。
未検査の検体数がどんどん減っていく。
「やっぱり駄目なのか……もっと検体が必要ね、別の地域はまだ採血やってるのかしら」
残った検体が遠心分離機にかかる中で、美晴はつぶやいた。
それから数分後、遠心分離機が動きを止める。
最後の十本を機材から取り出し検査する。
そして、奇跡が起こる。
「……A?」
美晴が手を止める。
「違う……これ、A判定じゃない」
美晴はその検体を取り上げ、すぐに再検査を行う。
「Aより上……? これは、S……S判定よ」
歓喜の声が検査室に響き渡る。
美晴は、指で検体の採取者の名前をなぞる。
『四条空翔』
世界から否を突き付けられた美晴が、世界を覆せる証拠を手に入れた。




