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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第三章 春蘭秋菊

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第15話 「ここまでだ」

「もう一度だけ、聞いてあげよう。今……何と言った?」


「何度でも言ってあげるわ!アンタ、全然美しくない!桜お姉ちゃんの足元にも及ばないくらいよ!」


「……僕を怒らせるために、わざと言っているんだろう。そんな安い挑発に乗る訳――」


 言葉が途切れる。


 ビオラの視界から、ハンミョウの姿が消えた。


「ないとでも言うと思ったかい?――醜いな」


 次の瞬間、ビオラの目の前に現れる。


 振り下ろされるブレード。


 ビオラは横へ飛び、間一髪で回避。そのまま体勢を崩さず引き金を引く。


 だが、ハンミョウは腕を上げ、刃で顔を覆うようにして弾丸を受け止めた。


 火花が散る。


 ビオラは即座に距離を取り、桜の元へと駆ける。


「ちょっと挑発されたくらいでムキになるなんて、意外と単純ね!」


「自分の美しさを笑われて、怒らない者の方がおかしいさ。君達の方こそ、その程度の認識しか持てないのだろう」


「だが僕は違う!理解できない者には、分からせる――どんな手を使ってでも!」


「その押し付けがましい世界を、美しいと思っているのですか?」


「ああ……これ以上ないほどにね」


 迷いのない即答。


「さっきから訳の分からないことばっかり。アンタにとって“美しい”って何なのよ?」


「決まっている。この僕だ」


 ハンミョウが両腕を広げる。


「神が与えたこの完璧な姿――僕こそが美だ。僕より美しいものなど存在しない」


「なら、自分より美しくない者の下で動いてるのね。ここにいるのも、ラフレシアの命令でしょ?」


「その名を軽々しく口にするな!」


 空気が張り詰める。


「あの方は、僕の……いや、僕ら昆虫騎士団すべての“理解者”だ」


 わずかな間。


 そして、再び冷ややかな笑みが浮かぶ。


「さて、時間稼ぎはもう済んだかな?高みの見物を決め込んでいる彼女の戯言を信じているなら、諦めた方がいい」


 視線が、蘭へ向く。


「何こっち見てんのよ。自分の弱点にも気づけないくせに、格好つけてんじゃないわよ!」


「……どうやら会話にもならないらしい」


 小さく吐き捨てる。


「さっさと始末して、彼女にも理解させてあげないとね」


 桜とビオラが同時に構える。


「ビオラさん、何か分かったんですか?」


「確証はないけど……たぶん、あいつは――」


 ビオラは桜の耳元で短く囁く。


 桜の表情が引き締まった。


「なるほど……それなら、これまでの動きとも辻褄が合いますね」


「でも、もし外れてたら――」


「大丈夫です」


 桜は刀を握り直す。


「わたくしが誘導します。それに、仮に違っていても――」


 一歩、前へ。


「その時は、また一緒に考えましょう」


「……桜お姉ちゃん」


 ビオラは一瞬だけ目を伏せ、すぐに顔を上げた。


「うん。任せた!」


「ええ――参ります!」


 桜が地を蹴る。


 一直線の踏み込み。


 ハンミョウのブレードと、桜の刀が激しく交差した。


「そろそろ遊びも終わりにしようと思っていてね」


「あいにく、わたくし達はこれからです!」


「ここまでだ」


 押し返される桜。


 体勢を崩され、後方へと弾かれる。


「これで終わりだ」


 ハンミョウが踏み込む。


 その姿が、視界から消えた。


「――Terazテラス!」


 銃声。


 弾丸が走り、ハンミョウの頬をかすめる。


「よし……!」


 ビオラが息を吐く。


「やっぱり……間違ってなかった!」


「……よく当てたね」


 ハンミョウが頬の血を指で拭う。


「もう一つ、分かったのよ。アンタ、自分の速さに目が追いついてない」


 銃口を向けたまま、続ける。


「だから高速移動のあと、必ず一瞬“止まる”癖がある!」


「……なるほど」


 ハンミョウが小さく笑う。


「意気揚々と語る割には、ずいぶんと寂しい結論だ」


「何ですって――」


「君達と僕では、“欠点”という言葉の意味が違うらしい」


 ゆっくりと顔を上げる。


「確かに、その通りだとも」


 口元が、歪む。


「だが、それは弱点ではない」


 一歩、踏み出す。


「究極の美を体現した結果に過ぎない――それに……」


「この美しい姿が、誰にも見えないのは勿体無いだろう?」


「わたくしの仲間に、貴方の速さを捉えられる方がいますよ」


 桜が体勢を整え、刀を構える。


「なんと――。それはすぐにでも会いに行かないとね」


「残念だけど、アンタはここでおしまいよ!」


「一度当てたくらいで、そこまで強気になれるなんて……。やはり醜いな」


「言ってなさい!」


 ビオラが引き金を引く。


 銃声が響く――その直前。


 ハンミョウの姿が、再び掻き消えた。

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