27.朝チュン
その日は朝から頭が少しズキズキしていた。
昨日、S級クエストの成功祝いで冒険者ギルドの酒場で大騒ぎした後、僕らはギルドハウスに帰ってきて……それから、割とすぐに寝たんだけど。
「ううん……昨日は僕もちょっと飲み過ぎたかな……控え目にしたつもりだったけ……ど……」
そこで僕は言葉を失った。
「すぅ……すぅ……」
リーピアが僕のベッドに寝ている。
しかも半裸で。
「!?!!?!!??」
おかしい、昨日は確かにリーピアを彼女の部屋まで送り届けて眠ったはず……!!
僕は混乱し、ぱくぱくと魚のように口を開け閉めする。
目の前では衣服を殆ど脱ぎ散らかした状態で下着もズレまくったリーピアの痴態、ならぬ肢体が艶かしく寝返りを打っていた。
あ、まずいこれ、色々見えそう……僕は反射的に目を逸らす。
っていうかどうしよう、どう起こせば穏便に済む!?
混乱する頭を必死に回転させ方策を練るが、リーピアのうっすらと生傷の残る、程よく健康的に灼けた生足やほっそりした腕、チラッと見え掛けた胸元やお腹が目に焼き付いて離れず、僕の思考を妨げる。
「バカバカバカ何考えてるんだよ僕! まだちゃんとお互い付き合ってもいないでしょ!」
ポカポカと僕は自分の頭を殴る。
だが鮮明に残る彼女の肌色が脳裏から消える事はなく、むしろ増幅していくようですらあった。
そんな事をしていたら、やがて……
「ん……むにゅ……ふぁ〜あ……」
リーピアが目を覚ました。
「あ、あの……リーピアさん……?」
僕は青ざめて、恐る恐る声を掛けた。
寝起きのボーッとした表情でリーピアは僕の顔を見る。
「あ……おはよ」
「お、おはよう……」
……良かった、変な誤解はしてないし大騒ぎもしない……。
そうだよね、こんな状況、リーピアが寝ぼけたに決まってるよ、うんうん。
僕は納得して胸を撫で下ろす。
すると。
「……スレイドって、結構大胆な事するんだね……」
リーピアが特大の爆弾をブン投げてきた。
「誤解招くような事を言わないで! あ、悪質な冗談過ぎるでしょ!?」
まるで僕が自分のベッドに彼女を連れ込んだみたいな言い方をするリーピアに、僕は慌てて身の潔白を主張する。
「酷い、昨日はあんなに求めて来たくせに……」
よよよ、と泣く演技をするリーピアに僕は真っ赤になり、そして怒る。
「やめてってそういうの! 今は素面なんでしょ!?」
「ちぇっ、つまんないのー。もっと恥ずかしがってくれたら張り合いあるのに」
リーピアは演技を諦め、はだけた着衣を直して僕の部屋から出て行く。
そして去り際にチラリと後ろを振り向き、チロッと舌を出して言う。
「……でも、本気になっても良かったんだよ」
「早く自室に戻りなさい!! 可及的速やかに!!」
僕が枕をバーンと投げつけると、素早くドアを閉め逃げ去るリーピア。
枕はドアにぶつかってそのまま落ちる。
部屋の外からは、あはははっと甲高い笑い声が聴こえる。
「まったく、もう……」
こないだは酔いに任せてとはいえ告白してきた彼女との距離感は、なんだか相変わらずだった。
僕の事をからかってきてばかりで、積極的になったかと思えば恥ずかしがって離れて、彼女の本心が分かるようで分からない。
いや、分かってるはずなんだけど、なんていうか、本音をワザと隠すように振る舞うんだよね……。
素直じゃない、っていうのか、はぐらかし癖があるっていうか……。
はぁ、と僕は溜息をついて枕を拾い上げ埃を払う。
それからドアを開けて顔を洗おうと階下に降りようとした、その時。
ガチャリ。
「あ」
「あっ……」
僕の部屋から出て、ついさっき降りていったリーピアと、今しがた部屋から出た僕を見咎める姿があった。
ブライアだ。
「おはようブライア」
「い、今、リーピアさんスレイドさんの部屋から」
「誤解しないで欲しい」
僕はブライアが何か言う前にキッパリと言った。
「え、え、でもお二人はその」
「何もなかったから」
言い募る程、疑いを深めているだろうとは思うのだが否定するしかない。
「そ、そうですか……」
ブライアは完全に誤解していると思うが、言いふらしたりはしないだろう……。
まあ言ったところでガルデもフリッターも、いつもの事で流すだろうけど。
と、そこでブライアはポツリと言う。
「も、もしかして私にもチャンスあるのかな……」
僕は耳を疑った。
「ブライア、今なんて?」
「あ、いえ、何でもないです!」
そう言うとパタパタと可愛らしい足音を残して、ブライアも階下へ降りていった。
……僕はこのギルド結成以来の酷い修羅場が起きる予感をひしひしと感じつつ、どうすることも出来ずにいた。
(つづく)
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