○○ミーツ聖女
気の迷いでつらつら書きます~
始めましてこんにちは。
突然ですが、私の名前は美月瑠依といいます。勤め人です。
良くある事なのかはよう分からんですが、どうやらこの度、えらいファンタジーな感じの異世界にトリップしてしまったみたいなんです。
えー。あー。うん。
あのバス毎日毎日5分遅刻がノルマかよ、とか悪態付きつつ大急ぎで駅の階段を駆け下りてたのは良くなかったかも知れない。さらに悪い事に、雨、降ってたし。
駄目だよね。雨で濡れた石床の階段を駆け下りるとか、絶対やったらやばい事ですわ。
その所為でこう、ギャグのよーに見事にすってーん! と転んだ所までは覚えています。
階段、まだめっちゃ続いていて「あ、これは死ぬ」ってさすがの私も悟りました。
何となく通勤カバンを抱き抱えて、頭がパックリ割れたり血がばしゃーって広がったりするんだろなーとか考えながら、気が遠くなって。
そして。
目が覚めたらそこは、何かすっごいファンタジーな所でした。
まず目に映ったのが滝。三方を滝に囲まれてるって視覚的に恐怖感。
その水しぶきが何故か落ちずにふよふよ浮いてるし、何かよー分からん七色に色を変えるモヤ? みたいなのもそこらにふわふわ漂っているし。どう見ても現実っぽくない風景だ。ゲームに出てくる祠か何か? って感じの場所なのかな。足元の石畳は白っぽいのに下の水の様子が見えるシースルー仕様という有り得なさ。しかも宙に浮いているみたい! 宙に浮いた石畳が階段みたいな感じに下へと続いて行って、地面みたいな所には青々とした芝生が広がっている。階段から舗装された石畳の道が芝生の中も続いていて、そして唐突に石レンガっぽい壁と豪華な木のドア。ん? まさかここ室内じゃないよね? 滝三つあるけど。何かドアの辺りだけ部屋の中~って感じが醸し出されてるんだけど。周り、滝三つなのに。
「ここ何なん? いやホント何なんこれ? え、ちょ、ホント何なん??」
きょろきょろと挙動不審さ全開、怪しさ疾しさ全開で辺りを見渡しながら、人っ子一人いない空間っぽいからと遠慮なく独り言かましていたら、苛立たし気に応えるイケボがあった。
私の立ってる下の方から。
「なんなん、なんなん、うるさいぞ」
「うわあっ!?? ごめんなさい!!」
どうやら私、駅の階段から落ちて? ここに来た? 拍子に見知らぬ男性を下敷きにしてしまっていたみたい。慌てて飛びのくと、のっそりと起き上がる男性が一人。
私デカ女な方なのに目線の高さに男性の肩がある。普段中々見かけん長身ですわ。顔を見るのにちょいと見上げんとロクに顔も見えない背の高さ。がっしりとした体格に広い肩幅。
そして来ている服!
多分お高い上等なヤツやろうけど、あれ、なんて言うのかな、中世ヨーロッパ的ファンタジーで騎士の偉い人が鎧の下だか仕事着だかで来ている軍服っぽいやつ! 名前は知らん。
取り敢えず、平成の世で日本人が来ていたらコスプレにしかならない感じの、大体のアジア人には似合わない感じのカッコいい蒼い軍服(?)の目の覚めるようなイケメン。
涼やかで冴えた氷の様な怜悧なイケメンさんですわ。
長くてバッシバシの睫毛が銀色。その奥の冷ややかな瞳も銀色。
あれどう見ても灰色じゃなくて銀色。
「ううっわぁー、ファンタジー」
「人語を話せ」
「えっ、人語しか話せませんが?」
「なんなんと鳴く新種かと思ったぞ」
「ああ、ごめんなさい。つい。「何なの?」って言ってただけだから」
本当だろうな、みたいな疑わしげな眼で睨むイケメン。顔の良い人の冷たい目線って心にくるものがあるよね! もーいい歳なんでこれ位じゃめげないけど。
「まあでも、言いたい事は変わりません。私、突然ここに来たという認識なのですが、この事態は一体何なの? 誰か説明しやがれ、って言いたいですね」
「口が悪いな……」
「ささやかな怒りの表現です」
「そう……なのか? まあ俺もよく分からんが、その格好、異界の者だろ。聖女召喚の儀が成功した結果じゃないか?」
「は?」
「だから、君が聖女なんじゃないか?」
「ぶはっ!」
「きたなっ!」
「だひゃはははははははは!! ふは、ははは、あっははははははは!!」
「!?? 何て可愛くない笑い方だ!」
「せいじょ! 私が、聖女とか!! あっはははははッ!!」
「なんだ! なんなんだ!!」
「や、ガラじゃないですわ~」
「大いに賛同したいが、先程為された聖女召喚の儀の発動の魔力に、君の不可思議な格好を見れば一目瞭然だろう」
「気の所為ですよ。それよりも――――」
ぶっちゃけ私が聖女とかマジウケるという感想しか浮かばないし、わっかいぴゅあっぴゅあ~な女の子ならともかく、私がこの年で聖女とか一体何を思ってそう言うかな? と信じる気は0%。私の隠された聖女様(笑)な正体よりも、もっと建設的な話をしようと思ったんだけど、お爺ちゃんな声に遮られてしまった。
「王子! フォルツ王子! ご無事でしたか!」
「爺や……」
「あんな恐ろしい置手紙などなされて。爺やはお迎えが来るかと思いましたぞ!」
「置手紙ではない。あれは遺書だ」
「え……っ」
「この女―――恐らくは聖女だろう彼女が降ってきた所為で失敗してしまったが、今度こそこの滝から身を投げよう」
「聖女様が王子の御命を救って下さったのですか!」
「違います。気の所為です。不可抗力ですそう呼ぶの深刻に止めてください鳥肌立ちます」
「聖女の奇蹟も俺に効くのは一度だけさ―――魔力の全てが抜け落ちた俺に生きてる価値なんて無い……」
「あほか! そんなら日本人全員自殺せんといかんやんか!」
「ニホン……?」
「私の故郷です。魔力ってのがよく分からんですわ~ってくらい、魔力ない人ばっかりですよ私の居た所は。そちらの価値観はそうかも知れないですが、国民全員魔法なんて使えんし魔力なぞ知らんわ~って世界もあるんだって思えば、死ぬ事も無いんじゃないかって思うんですよ」
「…………」
「私達には魔力はありませんが、私達が無価値だとは思いません。頑張って生きて、中々に栄えた国を築いたりなんかしちゃってます。魔力なんて無くても幸せに生きてるんです。だから貴方だって、魔力が無くなったとしても無価値になる訳ないじゃないですか。死ぬとか止めてください」
この絶世の銀目の美青年、フォルツ王子に関して一つ書いてない事がありました。
多分、魔力が全て抜け落ちたとかいう発言に絡んでいる事なんでしょうけど。
私はそっと目を反らして言いました。
「髪もきっと。また生えてきますよ……」
「もう殺せ! 今すぐ俺を殺せ! 死ぬ! もう死んでやるー!!!」
「お気を確かに! 王子!! 王子ィィ!!」
さっきから隙間から見えてたんだよね。
かっちょ良く巻かれたターバンもどきが暴れて解れていく。
そして遂にすべて露わになってしまった。
髪一本も生えていない輝かしい、つるぴかの頭皮が。