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旦那さんの思い

私は歩さんの家に着いてすぐに

「歩、子供を連れて離婚するって簡単な事じゃないよ。」

と言いました。歩さんは、

「わかってる。」

と言いました。それを聞いて私は少し熱が入りました。


「歩、いつも冗談のように私の家の貧乏話をしてるけど、私のお母さんは私と妹を連れて心中しようとした事だってあるんだよ?!お米だって、何年前の古米か分からないような虫が湧いたようなのを必死に洗って、おかずもなくそのお米だけ食べたりした事だってあるし、本当に大変だったんだよ!そんな貧乏に歩は耐えるれる?!」


歩さんは少し沈黙したあとに、

「虫が湧いた米は無理。」

と呟きました。


「そういう事じゃない!!!お母さんはそういうお米でもいいですから!って頭を色んな人に下げて安く安くお米を買って来たり、何か自分の若かりし頃の大事にしていたものと交換してきたりして、私達姉妹を食べさせる為に必死だったの!!どんなに貧乏でも私達を手放さなかった!借金しながら高校も出してもらえた!その根性あるの?歩には!!」

と言うと、歩さんは


「それは無理だと思う。私は5歳から施設で高校まで育ってしまったから、生活が無理なら施設に預けようって考えると思う。」


と淡々と言いました。それを聞いて、私は怒りが出て来ました。


「歩はさ、んじゃあ何のために別れるって言うわけ?!ダメなら施設に預ける?ふざけたこと言うなよ?さっきまでペイを捨てるのか?!って旦那に怒ってた気持ちはどうしたんだよ?!おまえも私から言わせれば旦那と同じだよ!!結局似た者夫婦だよ!!」


と言うと、歩さんは完全に黙りました。

しかし、怒りの収まらない私は続けて言いました。


「子供がいるからにはきちんと備えてからじゃないとダメだ、と私は言いたいんだよ!幸いな事に私のお母さんのようにDVとかから私達を守る為に逃げなければならないというわけじゃない!身の危険はないでしょう?だったら、まず一年!それで自分にある借金をなくしてほしい!そして、借金をまだ払っているような感覚で最初にアパートを借りたりする資金を作りな!借金ではなく、貯金だよ!今何もないでしょう?!それじゃ、数ヶ月後にはペイは施設だよ!目に見えてる事をすんな!!子供の為にもっとずるくなれ!!旦那利用してやるってくらい賢くなれよ!ペイを守れるのは歩しかいないんだよ!!」


話が終わる頃には歩さんはまた泣き出していました。そして、


「mckeeの言いたい事は分かった。私は施設で育って、嫌な思いをたくさんしたのにペイにそれをさせたくはない。私が守らなきゃいけないんだよね。本当にまだまだ弱い。あたし本当に仮面でも何でもやるよ!!」


と決意を固めました。

私の母は父からの暴力にずっと耐えていました。しかし、妹が生まれて、泣き声がうるさい!とその矛先が妹に向かった瞬間に、このままでは子供が殺される!と私達姉妹を連れて実家に戻ったのです。しかし、古い考えが根強い田舎町だったので、子連れ離婚だなんて世間体が悪い、と受け入れてもらえなかったのです。それから母は自身の持ち物をたくさん売りながらギリギリ水面下の生活をして私達姉妹を高校まで卒業させてくれたのです。


私は親となり、頼る人もいなかった母の1歳にも満たない妹と私を連れての離婚とはどれほど辛いものだったのだろう、と同じものを体験しているようで守られる立場の人間には到底理解など出来ない苦しみを想像していたのです。


そして、歩さんのダメなら施設へ、という甘い考えは私の中では到底許される発言ではなかったのです。


歩さんからの施設の話や施設で嫌だったこと、自身が捨てられた時のこと、今でもある親との溝。そういった辛い歩さんの気持ちを聞いていたのです。それをペイちゃんにもさせる事に対してどう思っているのか、それが今回の怒りの引き金でした。


歩さんからの言葉を聞き、

「まず、今回の旦那さんの発言の真相がわからない。だから、私から電話して聞いてみてもいい?」

と尋ねました。歩さんはうん、と頷きました。


私はすぐさま電話をしました。


そして、「まともな子を作らないといけない」という発言はいかがなものか、どういった意味で言ったのか、あんな夜遅くに出て行ってしまって心配ではなかったのか、と聞きました。旦那さんは、


「また迷惑かけてしまってごめん。まず歩とペイは間違いなくmckeeの家に行ったのだろうと確信していた。迷惑かけるのはわかっていたけど、歩のあの様子では話にならないと思って頭を冷やすためにも黙っておこうと思ったんだ。」


と言いました。続けて、

「俺は、まともな子が欲しいって発言はしたつもりはないんだ。意味合いが違う。」

と言いました。わたしは

「では、どういう意味で言ったの?」

と聞きました。すると、予想もしていなかった回答だったのです。

「俺は、ペイが可愛い。なんだかんだ言って歩も歳が離れてるのもあってか可愛い。それには変わりない。だからこそ、俺はもう一人欲しいと思ったんだ。俺が死んだら歩は大人になっても独り立ち出来ていないかもしれないペイと二人きりになるだろ?そうなったら、頼る人もいなくて、ペイも歩に何かあった時に何も対処出来ないかもしれないじゃないか。その時、家から出ててもいいから、健常者として当たり前に独り立ちできている子が1人でいいからいれば歩とペイだけでのたれ死んだりはしないだろ?一緒に育った兄弟ってのは支え合えると思うんだ。俺は兄弟にたくさん助けられてきたから。」


正直、そういう考えだったのか!!

と驚きました。私は

「それをきちんと伝えないとわからないよ!まともな子を作らなきゃ!だけでそこまで理解しろってのは無理があるよ!ちゃんと言葉で伝えてやって欲しい。今電話変わるから!!」

と言い、歩さんに電話を変わりました。


歩さんと旦那さんはしばらく話し込んで、お互いに納得したようでした。

しかし電話が終わってから、

「お互い言葉足らずが多いせいだと思う。ご迷惑おかけしました。でもね、私の中で次の子供は帝王切開への恐怖もあるし、ペイにとって正しい事なのか今は判断できない。だってさ、もしも生まれた子が本当になんともない普通の子だったら、今のペイを受け止めきれてない夫婦だよ?きっとその子だけを可愛がったりしだすんじゃない?!逆もあるでしょ?!同じように発達障害の子供が生まれたら?怖くて次の子を作るなんて私にはできないよ!!」


旦那さんの様子としては、ペイちゃんの事を受け入れて頑張ってやっていくしかない、しかし向こう何年続くか分からない不安をせめて兄弟という味方をつけて自分の死後も二人が孤立したりしないようにしてあげたい、複雑な未来への思いがすれ違うこととなったのです。


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