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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のその後の物語

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15:夜食

 宮殿で働くメイドを束ねるメイド長。

 さすがにその立場から、すべてのメイドと顔合わせをしている。

 つまりメイド長の面接を通ったものがメイドになっているのだ。

「新人です」では誤魔化せない。


(こんな時間にメイド長が稼働していたの!?)


 手に持つ大きな籠からどうやらベッドメイキングをした後のようだけど……。


(この時間にメイド長が一人でベッドメイキング!? そんなの異例過ぎるわ……!)


 だがメイド長が王宮から戻って来たことで、合点がいく。


(なるほど。そういうことね。それは……噂話が大好きな下級メイドにやらせるわけにはいかない。念には念で、王家に一番忠誠を誓うメイド長にやらせているわけね)


 メイド長が突然現れた理由は理解できたが、これからの遭遇をどう切り抜けるか。

 目配せをするとエリーとメディは自然な動作で階段を上って行く。


(ナイスだわ! その階段で使用人部屋のある屋根裏へ向かったと思われる!)


 エリーとメディはそれでいい。セルジュについてもメイド長は気にするかもしれないが、夜食を運ぶバトラー。さすがに全バトラーの顔までメイド長は把握していないはず。よってセルジュはクリア。


(問題は私! どうしよう!?)


 まさに冷や汗状態になったが……。


「今晩は、ミセス・クリム」


 なんとセルジュは一度だけ伝えたメイド長のファミリーネームを覚えていた!


「ええ、今晩は……あなたは……」

「本日、ザックの代わりで第二王子殿下たちに夜食を運ぶことになったセールです。スピルナー男爵の遠縁の者で、二週間前よりこの宮殿勤めとなりました。慌ただしい日々を過ごしており、メイド長であるミセス・クリムへのご挨拶が遅れ、申し訳ございませんでした」


 もう、驚きしかない!


(セルジュはこんなピンチを想定していたの!?)


 確かにスピルナー男爵はレーガン王国に存在し、家門の歴史も長く、地方に親族が沢山いる。元々は地方貴族で王都へ進出した貴族だからだ。


 淀みなく挨拶をするセルジュをメイド長が疑うわけがない。


 一方の私は軽い会釈でこの場を通り過ぎようとする。


 メイド長の視線を感じるがすぐにセルジュが動いてくれた。


「ミセス・クリム。あなたは私の母上にとても似ています。何だか母上がこんな時間まで家のことをしているのかと思うと……胸が痛みます。どうか遅くならないよう、ゆっくりあなたが休めることを願うばかりです」


 そこは美貌のセルジュ全開で甘い声音でささやき、メイド長の手をとり、その甲へキスを落とす。


 これをやられたら通り過ぎるメイドの私に気を配る余裕はメイド長になし!


「ま、まあ、そうですか。セールさんのお母様に……。はい、今日はこれをランドリールームに届け、休むようにしますわ」


 上機嫌なメイド長の声を背中に聞きながら、私は廊下を進む。


(突き当りを曲がったところで、セルジュ、エリー、メディのことを待とう!)


 こんなハラハラドキドキなスパイ映画のような一幕もあったが、なんとか無事、王宮のレイールの部屋の前と辿り着く。


(廊下に警備兵はいるけれど、近衛騎士が部屋の扉の前にいるのは国王と王妃だけ。レイール付きの従者は控え室……つまり前室にいるわ)


 ワゴンで夜食を運ぶセルジュ。呼ばれて来ましたと誤魔化す予定の私。メイド長をやり過ごしている時、エリーとメディはどこからか枕とガウンを手にいれたようだ。まるでメイド長の指示でそれを持ってきましたとばかりでそこにいる。


(これなら控え室にいる従者も怪しむことはないわね)


 ということで、セルジュがノックすると、扉が開き、従者は私たちを見て一瞬「?」という表情になるが……。


(寝室での事情がわかるのだろう。疑問を呈することなく、中へ入れてくれる)


 そこからはすいすい寝室へ向かうことになる。


「レイール第二王子殿下、夜食が届きました」

「わかった、入れ」


 久しぶりに聞くことになったレイールの声に少し緊張感が走る。

 変装しているし、声を発する予定はないので、私であるとバレることはないと思うものの。奥歯を噛み締め、背筋を伸ばすことになる。


 ガラガラとワゴンを押し、セルジュを先頭に中に入り、最後のメディが扉を閉める。


「なんだ、そのメイドは? それに新顔だな、お前。名を名乗れ」


 そこでセルジュが名乗る間に寝室の様子を確認し、ルルシュの姿が見えないことに気づく。


(夜食が届けられたからバスルームにいるのね)


 すでにメイド長により、ベッドメイキングはされている。だが数十分前は、掛け布は床に落ち、シーツは乱れていたに違いない。


(ようはまだ婚姻前なのに、レイールとルルシャはそういう関係ということ。国王はこのことを知っているのかしら? 王族は純潔を重視するはずなのに。でもルルシャは聖女とわかり、婚姻前でもその身分と立場は盤石なものになった。もし婚姻前にレイールと関係を持ったからと言って、聖女であるルルシャが処分されることはない。だからこそ、大胆にも慣習を破り、ベッドインしたわけね……)


 ちなみにこの乙女ゲームの世界、十八禁ルートも存在する。聖女だからと言って乙女であることは求められていない。


「ルルシャは既にメイド長により、身支度を整えた。それにベッドメイキングも終わっている。何よりこれは極秘だから、メイド長自らが動いているんだ。なんでメイドが来たんだ!?」


 私が室内の様子を観察している間、セルジュは名を名乗り、なぜメイドがいるかを説明したが、レイールは納得できなかったようだ。


 声を荒げ始め、これでは前室にいる従者に不審がられてしまう。


「メディ」


 小声で指示を出すと、メディがセルジュのそばへ向かい「レイール第二王子殿下」と声をかける。


「なん……」


 そこでレイールの声は途切れ、静寂が訪れる。


「聖女はバスルームにいるはずです」と私が告げると、「かしこまりました! 私が行きます!」とエリーが動く。メディはスティに合図を送り、セルジュは厨房へ転移する。私は寝室の扉で従者が来ないよう見張り――。


 数分後。


 全ての準備は終わる。


「よし。作戦成功だ。撤収しよう」


 セルジュが魔術陣を展開させた。


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