12:えええ!
精霊の持つ力は神に近い力。対抗できるのは聖なる力のみ。
そして嫉妬深い精霊がいる限り、あの場所で稲作は難しい。
「……精霊は長くあの場所に住んでいるのですよね。そこに後から来た私たちが、邪魔をされたくないから排除することを考える。それは都合が良すぎますよね」
「そうですね。精霊は今となってはこの世界にそう多くは存在していません。よってそっとしておくのが一番いい――と思うのですが……」
そこでセルジュが盛大なため息をつくので「どうしたのですか?」と尋ねると……。
「あの精霊がわたしに話し掛けてきたのです」
「え、そうなのですか!? 私には聞こえませんでしたが!?」
「届けたい相手にだけ伝えることができるのでしょう。わたしがブラックキャットの姿の時もアマレットだけに声が聞こえるようにしています。それと同じかと」
「なるほど。……それで精霊は何と言っていたのですか?」
問うとセルジュが言い淀むので、私は言葉を重ねる。
「セルジュ様……いえ、セルジュ。わたしとセルジュは今宵、心身共に結ばれたと思います。さっきのキスは……誓いのキスだと私は思っているんです。どうしても言えないことなら言わなくてもいい。でも躊躇っているのなら、話して欲しいです。セルジュが私のどんな話でも受け止めたように。私もセルジュのことを受け止めたいと思っているので」
「アマレット……!」
感極まった様子のセルジュが私をぎゅっと抱きしめる。
甘いムスクの香水とその力強さに恍惚としそうになるが、そうではない!
「これまでいくら気持ちが昂っても、こんなふうに抱きしめることができませんでした。気持ちを静めるため、ブラックキャットの姿となり、アマレットに甘えていましたが……。この姿でこうやってアマレットを感じることができて、わたしは……とても幸せです。何より、わたしをセルジュと呼んでいただけたこと。嬉しいです」
「セルジュ……」
「アマレット、あなたともう離れたくありません!」
『それはどうかね、次期魔王殿』
突然、しゃがれた老婆の声が聞こえ、ギョッとすることになる。
「Pyr……」
『私を焼いたらセレノア様の伝言を聞けないよ』
老婆の言葉にセルジュが呪文の言葉を止めた。
そしてその金色の瞳の視線の先を追うと――。
天幕の出入り口近くの地面に少し大きめの蜘蛛がいる。
(え、あの蜘蛛が話している!?)
『セレノア様はあの泉の主。あの場所からは離れられない。だが泉の近くにいる動植物を操ることができる。そしてこうやってお前さんに伝言を届けることもできるのさ』
どうやら蜘蛛はあの精霊……セレノアが操っているようだ。
『セレノア様はお前さんのことを一目で気に入った。稀に見る美男子だからねぇ、当然だろう。そんな人間の女には勿体ない。泉に身を委ね、私のものになりなさい、とのことだよ』
これを聞いた私は「えええ!」だった。
精霊は美しい者を好むというが、まさかのセルジュに目をつけたの!?
(冗談じゃないわ! 私とセルジュはようやく両想いになれたのだ! 新婚の夫を精霊に奪われるわけにはいかない!)
『魔族の魔術はセレノア様には効かない。そしてお前さんが素直に泉に来ないなら、人間の女を人質にとるとセレノア様は言っている。女の命が大事なら、その身をセレノア様に捧げるんだね!』
「戯けたことを! そのような申し出、受け入れることはできない!」
『では女の命がどうなってもいいのかい?』
蜘蛛だからと侮ったら大違い!
その蜘蛛は前世のハエトリグモのように、俊敏に動けた。
一度のジャンプで私に到達し、そして首にチクリと噛みついた。
「痛っ……!」
「アマレット!」
さすがのセルジュでも反応できなかったようだ。
(でも仕方ないわ。セルジュは何も悪くな……)
そこから視界は暗転する。
◇
目覚めると、そこは宮殿の自分の部屋だった。
蜘蛛にチクリとやられた私はどうやらセルジュの魔術でここへ戻って来たようだ。
カーテン越しに感じる陽射し。
(多分、朝、かしら?)
ベッドのそばの椅子に座り、脚を組んだ状態で目を閉じているセルジュに声をかける。
「……セルジュ」
寝起きの掠れた声だったが、ハッとして目覚めたセルジュはそのまま椅子から立ち上がり、私をぎゅっと抱きしめる。
「アマレット、申し訳ないです。あれだけあなたを守ると豪語しておきながら、毒蜘蛛に噛まれる事態を引き起こしました。わたしは……アマレットの夫として失格です」
「そんなふうに自分を責めないでください、セルジュ。あんな展開予想外でしたし、私はあなたを責める気持ちはありません。それにせっかくお互いの気持ちがわかったばかりなのです。今は甘い二人でいい期間のはず」
「アマレ……」
そこで私からセルジュにキスをしてしまう。
トクトクと心臓が高鳴り、私はそのままセルジュをベッドに押し倒し、そこでゆっくり唇を離す。
「今の状況を教えてください」
「わかりました」
突然の私からのキスで、蕩けたような表情になっていたセルジュだったが、今の一言でいつものキリッとした顔に戻っていた。














