3:怪魚の……
「「「アマレット様~!」」」
グラマラス美女三姉妹が私を見て駆け寄った。
私は両手を広げ、三人を抱きしめ「よし、よし」とその背を撫でて宥める。
セルジュは騎士に怪我人がいないか確認し、従者にも声をかけていた。
(下々の者にもセルジュは優しい。間違いなくセルジュは立派な魔王になれるわ!)
そう思いながら、落ち着いてきた三姉妹に「それにしても突然、魔草樹が現れて、ビックリだったわよね」と声をかけると、スティが即答する。
「魔草樹は、草や花、木なのです。よって魔草樹が我々の前に突然、現れるなんてことはありません。鉢植えにした魔草樹を手にした者が突然、姿を現すことがあっても、魔草樹が自らの力で動き回ることはないのです!」
「なるほど。ではどうしてあの蔓の魔草樹は……」
そこで「アマレット」とセルジュが私の名を呼ぶ。
「騎士も従者や農夫も、そして馬車も無事です。転移魔術で戻ってもいいですが、侍女たちの話を聞きたいのでしょう? 馬車で移動しながら話を聞きましょう」
これは名案! グラマラス美女三姉妹が乗る馬車は四人乗りだった。セルジュがブラックキャットの姿になり、私の膝に乗せればいい!
「わかりました! そうしましょう」
こうして馬車に乗り込むことになった。
一番奥の窓際の席に私が座り、対面にはスティ。スティの隣にメディで、私の隣にエリーが座った。ブラックキャット姿のセルジュは私の膝で丸くなっている。
そのセルジュの様子を見たグラマラス美女三姉妹は……。
「このお姿の殿下は本当にお可愛いですね」
「アマレット様がこのお姿の殿下にメロメロなのも納得です~」
「私も抱っこしたくなります!」
ブラックキャット姿のセルジュはグラマラス美女三姉妹からも大人気。
「にゃーぉ、なおー(それよりも何があったか報告するのだ!)」
セルジュに言われ、三姉妹は顔を見合わせ、メディが話し始める。
「コロコロ村の子どもがくれた花束がありましたよね、アマレット様」
「ええ、可愛らしい野の花だったわ」
「普通の野の花にしか見えませんでしたが、どうやらそこに魔草樹が混ざっていたようなのです」
メディによると魔草樹は小さな存在なので、そもそも魔力が微力なものが多いという。
「魔族自身が魔力を発しているので、魔草樹のような小さな存在が発する魔力は見落としたり、魔族の誰かの魔力だと勘違いしたりしてしまうことが多いのです。コロコロ村の子どもそれが魔草樹であるとは知らずに摘んでしまったのだと思います」
「そんなに微力の魔力の魔草樹なのに、あんなに巨大な姿になるの?」
私の問いにエリーが「申し訳ありませんでした!」と頭を下げるので、どうしたのかと思ったら……。
「アマレット様、申し訳ありません! エリーは悪気があったわけではないのです。子どもたちからもらった花をアマレット様がとても喜んでいたのは私たちもよくわかっています。でも野の花はそのままではすぐに枯れてしまう。そこでエリーが魔術を使い、花束を元気にしようとしたのです」
スティの言葉に何が起きたのか、何となく想像がつき始める。
「魔草樹でなければ、エリーの魔術で、ただ元気になるだけです。ですが魔草樹は……。エリーの魔術から魔力を吸収し、突然活性化され、ぐんぐん成長し、巨大になったのです……!」
スティの言葉を受け、メディが続きを語る。
「エリーの膝の上でぐんぐん成長する蔓を見て『これは魔草樹だわ!』とすぐに気付きました。もしこのまま成長されては、馬車が破壊されてしまいます。そこで大慌てで私が馬車の窓から外へ投げました」
外に放り投げられた魔草樹はさらに成長を続け、暴れ出したのだ。
「私が不用意に魔術を使わなければ……本当に申し訳ありませんでした!」
ガバッと膝に額がつく勢いでエリーが頭を下げるので、私は慌てて顔を上げるように伝える。
「エリー、今回の件は事故よ。あなたは魔草樹であると気が付かず、魔術を使ってしまった。しかも花束を長持ちさせ、私を喜ばせようとしてくれたのでしょう? 悪意なんてどこにもない。許すも何もないわ。みんなが無事でよかった、それに尽きると思うの。殿下もそうですよね?」
膝の上で大人しく話を聞いていたブラックキャット姿のセルジュは「なーお、みゃーお(事故だから気に病む必要はないです。皆にはわたしから言っておきます)」と言ってくれている。それを伝えると……。
「寛大な御心に感謝します、殿下、アマレット様! 今後は気を付けます!」
そう答えた後、エリーが手の平にすっぽり収まるサイズの巾着袋を取り出した。
「魔草樹は燃え尽きる寸前に大量の種を落としたので、回収しておきました」
「そうなのね」
受け取った巾着袋の中を見て見ると……。
そこにはお菓子作りで使われるアラザンのような翡翠色の粒が結構沢山入っている。
「みゃーぉ、にゃーぉ(これは使えるかもしれません!)」
「わかりました。ではポケットにしまっておきますね」
そこでセルジュと私の乗っていた馬車が待つ馬車に到着できた。
ブラックキャットの姿のセルジュを残し、馬車から降りると「皆さん、ご無事でしたか!」と待機していた護衛の騎士が駆け寄る。
皆の無事を確認できると再度出発となった。
◇
魔草樹との遭遇はあったものの。
その後の道中は至って順調。
昼食の休憩では巨大怪魚を捕らえ、フリットにして美味しくいただいた。そして日没前に魔獣の森の手前で野営となったが――。
「あの、天幕が二つしかないのですが……」
「はい。こちらの大き目の天幕がアマレットとわたしです。あちらは侍女たちです」
「……護衛の騎士は全員寝ずの番で、従者は地面でごろ寝……?」
「まさか。そんな過酷なことを強いることはありません。騎士たちは野営ではみんな、別の姿になります」
「え、もしかして……」
セルジュは金色の瞳を細めて美麗な笑顔を浮かべると、こんな事実を教えてくれる。
「わたしはなぜかブラックキャットの姿なのですが、精鋭の騎士たちは皆、ブラックウルフの姿になれます。その姿の方が夜目も効きますし、嗅覚と聴覚も人型の時より鋭い。ちょっとした魔獣との戦闘は、ブラックウルフの姿の時が有利なことだってあります」
「な、なるほど……!」
「従者たちもブラックドッグという小型犬の姿になれるので、問題ありません。私もブラックキャットの姿で今晩は休みますから」
今回の調査の旅に出発した時、荷物が少なく感じたのは、正しかった。そしてその理由も今の話で理解できた。もし私とグラマラス美女三姉妹がいなければ、天幕は張らず、皆、ごろ寝だったのだろう。
(姿を変えられるのは便利ね……! でもグラマラス美女三姉妹は人型にしかなれない……。あの三姉妹がうさぎとかになれるなら、一緒に休みたかったわ……)
「王太子妃殿下、竈の用意ができました!」
「あ、ありがとう!」
昼間に捕らえた怪魚は食べ切れていない。残った分は、醤油、みりん、酒などで作った漬けダレに入れ、氷入り木箱でここまで運んで来ていた。
つまり。酢飯を用意すれば、怪魚の漬け丼ができる手筈を整えていたのだ!
今回の道中では魔獣との出会いがあることは分かっていた。そして野営をする場合、食材の現地調達は常套手段。セルジュは私が魔獣の料理で失神した過去を踏まえ、できるだけ食材を運んでくれようとしたが……。荷物を増やすのは申し訳ないと思ったし、この先この国で暮らしていくのだ。少しずつ克服する必要もある。
(今回の旅はいいチャンスよ。現地調達の食材を美味しく食べられると身をもって学ぶチャンス!)
ということで調味料とライスは持参していたのだ。そして昼に怪魚を調達した。しかも見た目は、前世で世界一醜い魚認定されたブロブフィッシュみたいだったが、その身は脂がしっかりのった、ブリそのもの! つまり絶品!
(本当はブリ大根や照り焼きにしたいところだけど、旅の道中だから……。怪魚の漬け丼で手を打つことにしたのだ)
ということで三回にわけてご飯を炊き、酢飯を作ることにしたが……。
「この扇子であおげばいいのですね?」
「はい。結構、ビネガーの香りがぶわっとくるので、覚悟してください」
「わかりました。お任せください」
ということで、砂糖と塩を先にいれて混ぜておいた酢を、炊き立てご飯に加え、私がかき混ぜるのに合わせ、あおぐようにセルジュにお願いすると……。
「……! すごい香りが……!」
端正な顔立ちのセルジュが悶絶しながらも必死に扇子であおいでくれる様子は……とにかくシュール!
「「「殿下がそんな顔をなさるなんて!」」」
グラマラス美女三姉妹は、セルジュのレアな姿が見られたと大喜び。
なんとか酢飯の用意も完了。盛り付けは三姉妹も手伝ってくれたので……。
「お待たせしました! 怪魚の漬け丼、完成です!」














