真摯な気持ち
ヴィクターの過去視点です。
とんでもないことをわたしに尋ねるため、彼女は声を小さくした。あまりにも声が小さいので、耳元で話すよう頼むと、彼女はわたしの香水に気づき、こちらの想定以上に顔を近づけたのだ。
おかげで鼓動が激しくなり、彼女を抱きしめたくなる衝動に、わたしは襲われていた。あの近さに彼女の顔があり、息を感じながら、自制できた自分をどれだけ褒めたことか。無自覚な彼女に、完全に骨抜きにされた。
骨抜きにされ、もう気持ちが収まらなくなり、告白を仄めかす言葉を口にしてしまった。
――「わたしが令嬢のあしらい方を覚えたのも、婚約者を作らないのも、それはすべて皇女様のせいです」
すると彼女は、明らかにドキッとし、そこで驚愕の表情に変わる。その上で怪訝そうな顔になったのだ。
驚くのは……当然だと思った。
好意を示す言葉を伝えたのだから。
でもなぜ、訝し気な表情になるのだろう?
不思議だった。
でもそこで「あ、あの、殿下。もしやテンセイシャですか?」と言われた時には……。
本当に目が点になってしまった。
しばらく考え、テンセイシャ=転生者と理解したが、なぜ突然、転生者と問うのだろう?
分からない。
だが彼女の方は彼女の方で、私が「皇女様のせいです」と言ったことが、理解できていないようだった。つまり、好意をわたしは仄めかしたつもりだったのに。気づいていない!
彼女らしいというか、なんというか。
とにかくもどかしくなり、我慢できなくなった。
――「自分でも分からないのです。分からないのですが、あの日、あの時、あの場所で。皇女様を見てから、忘れられないのです。ずっと。その結果、皇女様以外との未来が、考えられないのです……」
これにはさすがに意図に気づき、彼女の頬が薔薇色に染まる。
こうなったら、言うしかない。何より彼女は、ウィンザーフィールド帝国の皇女なのだ。手をこまねいていたら、彼女は帰国してしまう。その前に、気持ちを伝えないといけない。
ただ、彼女にとって、わたしに会うのは、今日が初対面も同然だ。そんな状況でこんなことを伝えるのを許していただきたい――そう前置いた上で、気持ちを告げた。
――「わたしは……皇女様に恋をしています」
あの時はもう、自分の心音が温室中に響いているのではないかと思った。
それぐらい、鼓動が激しく、全身が熱くなっていた。
一方の彼女は、明らかに困惑している。
それは……そうだろう。
初対面も同然で、わたしのことが分からないのだから。これで想いを打ち明けられ、即答したら、見た目と身分で好きになったことになる。そうではなく、わたし自身を知り、その上で好きになってもらいたかった。
ならば急いで告白しなくてもと思うが、これは必要なことだったのだと、自分に言い聞かせる。そして彼女に提案した。
――「ウィンザーフィールド帝国に戻られるまでの間。我が国にいらっしゃる間に、チャンスをいただけないでしょうか。皇女様と散歩をしたり、食事をしたり、お茶をしたり。観劇したり、観賞したり……。そんな時間を皇女様と持ちたいのですが、いかがでしょうか?」
自分でも恥ずかしいぐらい必死になっていた。
ずっと、彼女に片想いしていたのだ。
今さら引くなんてできない。ただ、時間がなかった。
何より。
ずっと夢見ていた。
彼女の手を取り、庭園を散歩することを。
ゆったりした空間で、共に食事を楽しむことを。
彼女が喜びそうなスイーツを沢山用意して、お茶を楽しむことを。
オペラや演劇を観たり、演奏会を聞きに行ったり。美術館や博物館へ行くのもいい。
彼女と……デートをしたかった。
わたしの真摯な気持ちは彼女に伝わったようだ。
彼女はしばし無言で、真剣な表情で考え込む。
その間、わたしの心臓のあのドキドキは……。血の気も引き、震えそうにもなっていた。
だが遠慮がちに、彼女が口を開いた。
その可愛らしい唇から告げられた言葉は――。
――「まだしばらくはこの国にお世話になると思います。私は王都へまだ行ったことがないですし、正直この男爵領以外、ほとんど行ったことがないので、ぜひいろいろ案内くださりますか?」
喜びで胸が震え、涙が出そうになる。
だがここは泣いている場合ではない。
喜びを伝えようと、心からの笑顔で返事をしていた。
「勿論ですよ、皇女様!」――と。























































