12:乾杯
徒歩で向かう王都……これはなかなか新鮮。
いつも馬車から見ていた景色が一気に近くなる。
「絵画で見たことはあるが、馬車がこんなにも沢山走っているのか?」
「そうですね。貴族は徒歩で街中を移動することはなく、馬車を必ずのように使うので」
「なるほど……。あの城にも見える建物は?」
「あ、あれは、時計塔です」
王都の中を歩き出すと、将軍オガタの興味は尽きない。目に入るもの全てが新鮮なようで、建物という建物については全て説明したが、それだけでは足りなかったようだ。
「これは? なぜ道に柱が?」
「これは街灯です。夜間でも移動出来るように、街を照らします。夕方が近づくと、ランプライターと呼ばれる人々が火を灯してまわります」
「何と……人力でそのように灯りをつけて回るのか! この道にある溝は?」
「見ての通り、道は石畳が多いんです。水はけをよくするために、この側溝が設けられています」
将軍オガタは「なるほど」の連続で、東の国にはないものを見つけては感心し、側にいるヒラタに「これは我が国でも作れぬか?」と何度も問いかけていた。
その一方でこんな発見もしている。
「屋台が……屋台がないのだな」
「そうですね。東の国のように、寿司や蕎麦の出来立てを目の前に提供する屋台はほとんどありません。飲食は店内、惣菜を持ち帰り家で食べる文化です。例外的にフェスティバルや祭りで屋台が出ることがあります。ですが日常的ではありません」
「……立派な石造りの建物が多く、街灯もあり、時計塔などもある。だが食に関しては……東の国も負けていないか?」
将軍オガタの言葉に「東の国の屋台は、文化です」と私が応じ、ヒラタも「上様、出来立てをその場に食べさせるは、我が国のもてなし誇って良いのでは?」と笑顔になる。
「だんご屋が欲しくはないか、アマレット殿?」
「欲しいです! ですから稲作を頑張りたいと思っています」
「なるほど……。セレノアの地も見てみたいものだ。我は農作業を自らするわけではないが、農業について知らぬわけではない。戦をするにも、農業の知識は必要だったからな。いくばくかのアドバイスは出来るであろう」
これは実に嬉しい申し出!
「オガタ将軍、ありがとうございます! 魔王陛下や王太子殿下に相談し、ぜひセレノアにお連れしたいと思います!」
そこでふと思う。
リオニール公爵の嫌がらせ。セルジュを王都から離れさせようとする悪事にどう立ち向かうといいか。将軍オガタの考えを聞きたいと思ったが……。
(これは国内の内政の問題でもあるわ。私が勝手に相談は出来ない。セルジュにまず、将軍オガタに相談してみたいと、話す必要がある)
そこで間もなく十二時が近いことに気づき、私は将軍オガタに提案する。
「宮殿とはまた違った料理を楽しめると思います。昼食は街中でいかがですか?」
「良き提案だ、アマレット殿! ぜひ、案内をしてくれ!」
迷うことなく連れて行ったのは居酒屋!
ルミナリア王国でも昼間からお酒を飲むことは普通であり、居酒屋が開いている。
「オガタ将軍は葡萄酒がお好きということ。さらにモッツァレラチーズも気に入ってくださいましたよね。こちらのお店では、このモッツァレラチーズを使った数々の料理を楽しめます!」
セルジュに相談し、このお店を見つけてもらった。店主が大のモッツァレラチーズ好き。だが人間界にそう行けないことから、水牛を飼い、自らチーズを作っているのだ。
「いらっしゃいませ!」
元気な声で店主が迎えてくれて、席は既に埋まりつつある。
「八名様……あ、そこの大テーブルをどうぞ!」
一枚板の大きなテーブルにベンチ席。ここに全員で座り、昼食タイムとなる。
「トシとリキはまだ飲めぬが、酒以外はあるか?」
「レモネードがありますので、ご安心ください!」
そう答えてから、将軍オガタに尋ねる。
「ワインもいいのですが、平民が良く飲むのは『ビール』です」
「ビール?」
「はい! 清酒は米で、葡萄酒は葡萄で、ビールは麦で作ったお酒です!」
「麦は……麦はパンを作るための穀物と思ったが、なんと酒も作るのか! 飲んでみたい!」
ヒラタもビールを飲むことになり、私も一杯目はビールにしてドリンクの注文を先にしてしまう。料理については将軍オガタが「アマレット殿に一任する。気に入ったものはおかわりする」だったので、フードについてもオーダーを通してしまう。
そこでドリンクが到着するまでの時間を使い、将軍オガタに伝えることになる。
「オガタ将軍。ビールというのは美しい琥珀色をしており、グラスに注ぐと白い泡が上部にたまります。その香りは香ばしく、味わいはほんのり苦い。喉越しで感じる飲み応えには感動できると思います」
「ほう。苦みのある飲料、であるか」
将軍オガタが興味津々という表情で尋ねる。
「そうです。東の国の方なら苦みに慣れていると思います。緑茶は旨みだけではなく、苦みがありますよね? ふきのとう、タラの芽、こごみなどもそのほろ苦さを楽しみます。それと同じようなものと考えていただければ……」
「確かに東の国の人間は……苦いものを喜んで口にしているな。ビールのその苦みもきっと旨さの一つに感じられるだろう」
将軍オガタがそう答えたところで、まさにビールが登場する。
木製マグに入ったビールはいい感じこんもりと泡に覆われている。
「何ともこの木の器は面白い! 樽のような姿ではないか!」
「お土産にいかがですか?」
「家臣全員分が欲しくなる」
「お任せください。ですがまずは乾杯をしましょう!」
グラマラス美女三姉妹は葡萄酒を頼み、それぞれがグラスを手に取り、トシとリキはレモネードの入ったグラスを手に持つ。
私とヒラタは木製マグの持ち手を握りしめ、将軍オガタがビールを手に先から立ち上がる。
「では皆の者、乾杯!」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
















