33話 初めてのガチンコ勝負!
シリアス回(?)
いつもより文字数が多いです。
「ダグラスッ!」
俺に攻撃を避けられたからだろうか、ダグラスを後ろから持ち上げていたコアトルビーは、腹に突き立てていた針を引き抜きいて距離を取った。
支えを失ったダグラスは、重力に従ってそのまま地面に倒れこむ。腹部に開いた穴からは止めどなく血が流れ続け、辺りの地面の色を変えていった。
胸が上下に動いているから息はしているようだが、あの出血はどう見てもマズイ。放置していれば出血多量で死んでしまうだろう。
マズイことは、分かっている。
分かってはいるが、俺は一歩も動くことができなかった。
目の前で起こった出来事があまりにも現実離れし過ぎていて、まるで映画の一場面でも見せられているかのようだ。
いつも憎まれ口を叩きあっていた。詐欺まがいのことはされまくったし、殴られたり蹴られたりもした。俺の式神ばっかり依怙贔屓するし、俺のことをロリコン呼ばわりして馬鹿にもしやがる。本気で「コイツ殺してやろうか」と思ったことも二度や三度ではない。
それでも、俺はダグラスに死んでほしくないんだ。
生まれて初めての、親しい人を失ってしまうかもしれない恐怖。現実でも自分に近い人間が死んでしまったことはない。不謹慎な話だが、もし一度でも経験していれば、ここまで大きな混乱もなかっただろう。少しは冷静になることだってできたかもしれない。
しかし、初めて経験するこの恐怖は、俺の体を鎖のように縛り付けて身動きを取れなくしてしまった。
こんな隙だらけの木偶人形を、目の前の敵が見逃すはずもない。
俺の前でホバリングしていたコアトルビーが、ダグラスを突き刺したその針を、今度は俺に突き立てようと突進してきている。
スローモーションのようにゆっくりと流れていく光景。いかに全身を鉄装備で固めているといはいえ、レベル1の俺なんてあの針の一撃で簡単に死ぬだろう。
しかし、俺は恐怖の鎖で雁字搦めにされている。動けないどころか、もはや動く気すら起きなかった。
ゆっくりと迫っていた針が、ついに俺の腹部へと到達する。
そのまま俺を貫く――――。
「そうはさせないのじゃ!」
直前で、横から突き出されたモミジの刀が針を弾き飛ばした。
邪魔をされて怒り狂ったコアトルビーは再度針を突き出し、モミジはそれに応戦するように刀を突き出す。そしてそのまま鍔迫り合いがはじまった。
「晴明! しっかりするのじゃ!」
ステータスの差を技量でなんとか補い、ほぼ互角の鍔迫り合いを展開しているモミジが、余裕のない声で叫ぶ。
「で、でも、ダグラスが」
「そのおじいちゃんをたすけるなら、コイツをたおすしかないのじゃ! このままじゃ、おじいちゃんも、モミジたちもしんでしまうのじゃ!」
そんなこと言われても、戦ったところでレベル20もの差があるのだ。勝てるはずがないじゃないか。恐怖フィルターがかかった俺には、コアトルビーが強大で無敵な存在に見えてしまっている。
体の底から絶望が形となって這い上がっていき、体を、心を蝕んでゆく。
このままでいれば、俺もモミジもコアトルビーに負けて死んでしまうだろう。ダグラスも、あのまま出血多量で死んでしまうはずだ。
そして俺とモミジは『はじまりの町』……いや、『モナクス』かもしれない。とにかく、安全な場所で復活する。そして、ダグラスのいない世界で生きていくことになるのだ。
俺はマキビさんにどんな顔をして会えばいいんだ? 俺のせいで大事な友人を失ってしまった人に、なんて声をかければいい?
悲しむだろうか。俺を憎むだろうか。
いや、あの人ならすべての感情を自分の中に押し込んで、「人の生き死には仕方のないことです」とでも言うかもしれない。その光景を想像しただけで、吐き気がするほどの罪悪感に襲われた。
「……くそッ」
頬を冷たいナニカが流れる。
自分の浅はかさが恨めしい。自分の不甲斐なさが恨めしい。自分の無力さが恨めしい。
別行動しようと提案された時、俺がダグラスを止めていればよかった。
俺が出発日をズラしていればよかった。
俺がモナクスに行かなければよかった。
俺がダグラスと出会わなければよかった。
俺がこのゲームを始めなければよかった。
今となってはどうしようもない『もしも』が、俺を幻の刃で深く切り裂いていく。
俺さえいなければ、ダグラスが死ぬことはなかったんだ。
もしかしたら、今からでも俺さえいなくなれば、ダグラスが死ぬことはなくなるかもしれない。
そう……俺さえ、いなければ……!
「晴明、ふぬけたのぅ」
「なん、だと」
冷たいモミジの声で、現実に引き戻された。
絶望でうなだれ、全てを投げ出して逃げようとした俺の目の前で、モミジは仁王立ちをしてこちらを見下ろしている。
「わらわとたたかったとき、晴明はあきらめてなかったのじゃ。イシキはうすかったが、それだけはおぼえておる」
「あ、あの時は、死ぬのは俺だけで……生き返る、俺だけだったから……」
そうだよ。あの時とは状況が何もかも違う。背負っているものだって違う。レベル差も分かっていなかったから、自分と相手の力量を比較して絶望することもなかったんだ。
「うそなのじゃ。あのときの晴明は、いきかえるどうこうなんて、かんがえてなかったのじゃ。あいてのチカラがどうこうなんて、かんがえてなかったのじゃ」
「お前に、俺のなにが分かるんだよ!」
たしかにモミジをパートナーだと認めている。それでも、俺とモミジは出会ってまだ数日の関係なんだ。そこまで信頼される理由もないし、俺のことを全て分かった顔でしゃべるモミジに、言い様のない苛立ちを感じていた。
そんな卑屈の権化と化して蹲る俺に歩み寄り、小さい手で胸ぐらを掴み上げて、モミジは俺の目を真っ直ぐと見つめながら口を開いた。
「わらわは、いきるキボウをもたぬオトコに、ほだされたりしないのじゃ。わらわは、すぐにあきらめるオトコを、スキになんてならないのじゃ。わらわを……わらわのスキを、あまくみるではないわ! この、たわけッ――――!」
もはや絶叫と言えるほどの魂の叫びとともに、思い切り頬をグーで殴られる。
その心のこもった一撃が、体の隅々まで染み渡っていき、俺の体を蝕んでいた絶望を洗い流していった。
あ、ちょっと待ってモミジさん、ラッシュは必要ないから。一発で十分、心に刺さってるから。アッパーを取り入れたコンビネーションとか、完全にKO取りにきてるよね!? あ、ダメ、意識が……。
「このくらいでゆるしてやるのじゃ」
「あ、ありがとう……ございまひゅ……」
いや、なんか違うじゃん。今ってホントはもっとシリアスなシーンだよね? なんで俺はサンドバッグみたいにボコボコにされてるの?
なんだか気が抜けてしまった。体と心をボコボコにされたことで、「もうどうにでもなれ!」って心境である。
だが、それで思考がクリアになった気もする。
「うむ! ちょっとはマシなかおになったのじゃ!」
あの時だって、俺と黒髪の美女の力量なんて天と地の差だっただろうに、俺は諦めてなんかなかった。絶対に倒してやると最後まで勝利を目指していたはずだ。
ダグラスが死んでしまうと嘆いていれば助かるのか? 恐怖でブルブル震えていれば、誰かが助けてくれるのか?
違うだろ。
こんな状況で俺は何をボーっとしているのか。小さい女の子を前に立たせて、恐怖に竦んでいるところを励まされ、あまつさえ守ってもらって……俺が剣と盾を選んだのは、なんのタメだった?
「……女の子を、守るタメだろうがよ!」
俺とモミジが突然開始した寸劇に戸惑い、「あれ? いまって戦闘中だよね? これって攻撃していいのかな?」という感じで周りをホバーしていたコアトルビーに、不意打ちで横から叩きつけるように剣を振るう。
中学校の体育で剣道をやったことがあるというレベルの、まさに初心者の剣。しかし、ゲーム的な補正も相まってか、俺が適当に振るった初心者の剣はコアトルビーの胴体に直撃し、数メートル弾き飛ばすことに成功した。
「どう考えても格上だ。耐えられるかどうか分からないが、死んでも耐えてみせる。モミジは後ろから援護してくれ!」
「りょうかいなのじゃ!」
流石にレベル1の攻撃一発では倒れてくれないようだ。コアトルビーはカチカチと顎を鳴らしながら、コチラを威嚇している。ありゃ完全にオコですね。ヒーローの変身を待つ悪役みたいなことしてるからだよバーカ!
「こっちだよ、蜂畜生!」
盾に剣を打ち付けて鳴らしてやると、俺を標的に定めたようだ。再度針を構えて突進してくる。
しかし、いくら速くても所詮は直線的な攻撃。針の延長線上に盾を置いておいてやれば、簡単に防げるんだよ!
思った通り、俺が構えた盾に針が当たった。鉄の盾に攻撃を阻まれたコアトルビーは、少し距離を離して再度針を構えている。
意外と相手の攻撃力は低いようだ。体に直撃さえしなければ、なんとか戦える。
「一匹だったらどうってことねぇな、オイ! その立派な針は裁縫用ですかぁ~?」
あ、人間の言葉が分かるのか知らないけど、あれブチギレましたね。
怒りは判断力を鈍らせる。人間でもそうなのだから、ただでさえ単細胞な虫なら効果抜群だろう。どうみても軽装備なモミジを放置し、重装備な俺をロックオンしていることからも明らかだ。
そうして何度か盾で防ぐうちに、要領が分かって余裕が出てきた。やっぱりゲームは試行回数だね。もはや針が止まって見えるぜ。
そろそろ反撃の時間だ!
針が盾に当たるその瞬間、下から打ち上げるように盾を振るう。重心を逸らされたコアトルビーは空中姿勢を上手く制御できず、フラフラと頼りなさげに飛んでいる。
「チャンス!」
「なのじゃ!」
そこに息を合わせた俺とモミジの連続攻撃が襲った。俺のチャンバラ剣とは違い、モミジの刀はどうしたことか、まるでテレビでみた剣術の名人のようだ。
幼刀くまてつでコアトルビーの関節部分を的確に攻撃し、レベル1にもかかわらず、ついには羽の1枚を根元からもぎ取ってみせた。幼女つえぇ。
羽を1枚失ったコアトルビーは飛ぶことすらままならないようだ。なんとか姿勢を整えて攻撃してくるが、その突進には先ほどまでの速さや鋭さはない。
「コイツはいいサンドバッグだぜ!」
「なんだか晴明がアクヤクみたいなのじゃ」
「気のせいだ!」
ジャイアントキリングは燃えるモノ。分類的にはこのコアトルビーも雑魚なんだろうが、レベル1の俺にとっては強敵だ。強敵を圧倒しているこの感じ、最高だね!
「これで、終わりだッ! ★朱雀の印 火雨★」
グルリと身体ごと回転して、最大限に遠心力をつけた一撃がコアトルビーを大きく吹き飛ばした。その隙を見逃さずに火雨を叩きこんでやると、コアトルビーは大きく炎上した後、光の粒子となって消えていった。
「よっしゃぁ! 俺達の勝ちだ!」
「なのじゃ!」
俺とモミジは武器を天高く上げ、大きく勝鬨を上げる。これは大金星といってもいいだろう。レベル1の俺達が、推奨レベル20の敵を倒したのだ。得も言われぬ興奮に身を震わせる。いままでゲームをやってきて、最も魂が震えたバトルかもしれない。
「――って、それどころじゃない! ダグラス!」
二人でダグラスに駆け寄って抱き起す。
荒く息を吐き、顔色は青を通り過ぎて紫にまで変色していた。出血が酷いのもあるかもしれないが、さっきと比べても顔色があまりにオカシイ。
なにか原因があるはず……。
そうだ、ジジイは蜂の針に貫かれた。
つまり――――。
「――毒か!」
蜂の針といったら毒!
俺はインベントリから『解毒草』というアイテムを取り出す。これは『モナクス』の自称薬草名人から譲ってもらったもので、ステータス異常『毒』であれば解毒ができるアイテムらしい。これがステータス異常『猛毒』ならば解毒できないが……。
薬草名人に教わった通り、患部にそのまま解毒草を当てる。すると、解毒草が光の粒子となって、ジジイを包み込んだ。
呆然とその光景を眺めていたが、やがて光の粒子は霧散していき、後には顔色が紫から青に戻ったジジイがいた。
「ダメだ! まだ顔色が真っ青だ!」
次にイベントリから『薬草』を取り出して当ててみたが、ここまで重症だと効果がないのか、少し顔色が良くなる程度であまり状況は変わらなかった。これ以上はここでは無理だ。すぐに町の病院に連れて行かなければいけない。
「モミジ、俺が背負っていく。後ろを警戒しながら付いてきてくれ」
「……晴明」
「時間がないんだ! 早く連れて行かなきゃ……」
「――晴明、ダメじゃ。囲まれておるのじゃ」
そのモミジの声で、やっと俺は状況を理解する。ダグラスに夢中で気がつかなかったが、耳を澄ませてみれば四方八方から大きな羽音が聞こえていた。これはどう考えても2,3体なんてレベルじゃない。10体か、それともそれ以上か……。
そしてダメ押しのように、山を下っていく道に大きな影が立ち塞がった。
「ハハッ、お前らやっぱりグルだったのかよ」
俺達の前に立ちふさがったのは、サーベルベア……それも、どうやら普通のサーベルベアじゃないらしい。
6メートルに到達しようかという巨大な体躯。
サーベルというよりも、もはやグレートソードとも呼ぶべき右手の爪。
そしてその大きな背中に――。
――――体からはみ出すほど大きな蜂の巣を背負った、異様な姿をしたサーベルベアだったのだ。
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夢の1000ptが見えてきました(`;ω;´)
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